灰被りの意地悪な義姉ですが、傷つけた鳥と少年の正体が「光の神」だったので全力で攻略します

灰被りの意地悪な義姉ですが、傷つけた鳥と少年の正体が「光の神」だったので全力で攻略します

紗夜 · 連載中 · 299.3k 文字

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紹介

小沢かなは西洋ファンタジー小説の中に転生し、ヒロインであるシンデレラの意地悪な義姉となってしまった。しかし少し前、彼女は自分の猫にシンデレラの飼う雀を噛ませて重傷を負わせ、その夜には何者かに命じて一人の落ちぶれた少年の両目をえぐり取らせていた。そして彼らこそは――世界の主宰、光の神の化身だったのだ!

一ヶ月後に迫る、生気を吸い尽くされて干からび、絞首台送りになる未来を前に、小沢かなは、すでにシンデレラに攻略された暗夜公爵とニール王子を諦め、最高難度の「光の神」を攻略することを決意した。

チャプター 1

「エステル、出て行きなさい!」

教鞭が鼻先を突きつけられた瞬間、小沢かなはようやく気づいた。自分が叱られている言葉を、フランス語で理解している。

顔を上げる。

目の前の女は怒りで唇を震わせ、その背後には薔薇の彫刻が施された白い机がずらりと並んでいた。ふわりとしたドレスの少女たちが一斉にこちらを見ている。口元を押さえる者もいるが、目の奥の笑いは隠しきれていない。

小沢かなは自分の姿を確かめた。

ローズパープルのスカートが膝の上に広がり、袖口から覗く手首は透けるほど白い。金色の巻き髪が一筋、これまで着たこともないレースの上へ滑り落ちる。

さっき、何を言った?

たしか誰かが訊いたのだ。ニール王子とレイン公爵、どちらを選ぶのか、と。

眠気で頭がぼんやりしていて、うるさいと思った。だから適当に返した。選ぶなら当然、いちばん上――光明神でしょ、と。

「神を冒涜する妄想を!」女は教鞭をさらに突き出す。「廊下に立ちなさい。一時間! 今すぐ!」

小沢かなは口を開きかけ、結局スカートをつまんで立ち上がった。

ハイヒールが思うように言うことをきかない。隣の机を支えにしたとき、押し殺した嗤いが耳に刺さった。

「綺麗だからって、何でも望めると思ってるのね」

「ヴィヴィアン姫のほうがずっと高貴よ。神の姫妾になりたいなんて言って、結局は豚にされたんだもの……」

背後で扉が閉まる。

六階の廊下に立つと、風が顔いっぱいにぶつかった。遠くに雪山が連なり、白い鳩が半円のドーム屋根をかすめて飛ぶ。ステンドグラスの光が足元に落ち、影さえも見知らぬ形をしていた。

腕をつねる。

痛い。

夢じゃない。

エステル。ニール王子。レイン公爵。

そして雪山の麓にあるのに寒くない、この城邦。

昨夜読んだばかりの名前が、目の前の世界と一つずつ噛み合っていく。

――『灰姑娘の華麗なる逆襲』。

そこへ入り込んだのだ。しかもシンデレラではない。シンデレラの、愚かで毒のある義姉のほう。

エステル・グラント。

彼女の母は元は貴族の未亡人で、その後、セシリーの裕福な父と再婚した。だが相手は商人で平民のまま。結婚しても、彼も実の娘もグラント家の貴族身分は得られなかった。エステルとセシリーは、もともと血のつながった姉妹ではない。

小沢かなは手すりに掴まった。さっきまで新鮮だった金髪が指先に落ちているのに、眺めている余裕はない。

この少女の結末を、小沢かなは知っている。

干からびた死体が絞首台に吊られ、その隣には母。セシリーは馬車の中から遠目に一度だけ見て、それ以降、哀れなシンデレラを虐げる者はいなくなった。

読んだときは、悪役の定番の末路だと思った。

けれど今、ドレスが自分の身体を包み、指の下で生きた脈が打っている。

死ぬのは自分だ。

なぜ死ぬ?

小沢かなは目を閉じ、必死に記憶を掘り起こす。

エステルは義妹をいじめ、猫で彼女の飼う灰色の斑雀を傷つけ、さらに落魄の少年の眼をえぐり取らせた。少年はただの平民、せいぜい取るに足らない小貴族だと思っていたのだ。

だが、彼はノアだった。

記憶を失った光明神の化身。

セシリーは彼を救い、庇護を得る。

彼を傷つけたエステルは不運続きで、最後には命さえ守れない。

眼をえぐってから死ぬまで、十五日。

小沢かなの指先が、じわじわと強張る。

今はいつだ?

扉の向こうから教師の声が漏れてくる。

「三日後、神使がソロン学院へ試験に来ます。あなたたちの中から、神に選ばれる者が出るといいのだけれど」

三日後。

さっき教室で囁かれていた話が脳裏をよぎる。昨夜の王子の成人宴で、星光のドレスを纏った謎の少女が王子と一晩中踊った――。

それがセシリー。

小沢かなははっとして手すりの外へ身を乗り出した。

教会の鐘が鳴る。息を止め、一つずつ数える。十一の音が落ちた瞬間、下の音楽噴水が水を吹き上げ、陽光が水面を砕けた金に変えた。

なのに、寒い。

遅かった。

危険は十五日後なんかじゃない。前の持ち主を止める時間など残っていない。

――前の授業の前に、ノアの眼はすでにえぐられている。

今ごろ彼は噴水の裏の人工岩の洞に横たわり、救いの手を待っているはずだ。

そして、その「救いの手」は本来、セシリーのもの。

小沢かなは階下を見渡す。

灰色がかった少女が校門をくぐってきた。花籠を腕にかけ、足取りは軽い。古い木綿のワンピースに、歩みに合わせて揺れるエプロン。

昼食を届けに来たセシリー。

小沢かなが彼女を認めた瞬間、脳裏に金色のアイリスが閃いた。

グラント家の紋章。

原作では、ノアがそれを握っていた。守衛がそれを手がかりにエステルを突き止める。そして今夜、彼女は牢へ投げ込まれ、三日間閉じ込められる。

小沢かなは反射的に身を探ったが、紋章は見当たらない。

迷っている暇はない。

小沢かなはスカートをたくし上げ、階段へ駆けた。

先に人を連れ出す。

ノアは記憶を失っている。誰が自分を傷つけたのか、わかっていない可能性が高い。セシリーより先に彼を見つけ、こちらに繋がるものを回収できれば、まだ望みはある。

その後のことは――。

今夜すら越えられないのに、未来なんて語れるはずがない。

階段が背後へ流れていく。ヒールが硬い音を立て、胸がざわつく。手すりに縋って最後の曲がり角を回り、芝生を突っ切る。噴水の飛沫が顔にかかっても止まらない。

人工岩は、炎のように赤い灌木に囲まれていた。

下には多くの骨が埋まっているという噂で、普段は誰も近づきたがらない。

だが今、その灌木のそばに花籠の少女が立っていた。

「エステルお姉さま?」

少女が振り向く。濃い栗色の長髪の下、茶色の瞳が驚きに揺れた。

小沢かなの足が止まる。

セシリーの開いた掌の上で、金色のアイリスが光っていた。

ルビーを嵌めた花芯が、目に痛いほど赤い。

――やはり遅かった?

小沢かなはその手を見つめる。指はきれいだ。エプロンにも血の跡はない。セシリーはすでにノアに触れたのか、それとも近くで拾っただけなのか。

息を整え、小沢かなは紋章を取り上げた。

「セシリー。わたしのアイリスを盗んだわね」

「違います!」少女は慌てて首を振る。「ここで拾ったんです。お姉さま、本当に盗んでない……」

小沢かなは紋章を握りしめ、すぐには返事をしなかった。

自分は十分に急いで下りてきた。セシリーが血まみれの少年を支えていたなら、血の一滴も付かないはずがない。

けれど原作では、この紋章はノアの手の中にあった。

外に落ちていたのなら、誰がそれを洞へ運んだ?

「エステルお姉さま……」

セシリーの目が赤くなり、指がエプロンを強く握りしめる。

小沢かなは彼女を見つめながら、ふと理解した。原作の「視点」は、いつだってこの子の目だったのだ。

自分はセシリーと一緒に喜び、彼女の受けた屈辱に怒った。

なのに今、目の前に立つ彼女の言葉を、ひと言たりとも鵜呑みにできない。

――それでも、紋章は取り戻した。

「泣くんじゃないわ」

小沢かなは花籠を奪い、エステルらしい傲慢さを必死に保つ。

「さっさと行きなさい」

セシリーは呆けたように瞬きをした。こんなに簡単に許されると思っていなかったのだろう。涙を拭い、数歩進んでから、もう一度だけ振り返った。

小沢かなは動かない。

灰色のスカートが道の先に消えるまで、じっと立っていた。

消えた瞬間、痛むほど握りしめていた手をほどく。

金色のアイリスが掌に食い込み、赤い跡をくっきり残していた。

それをしまい込み、灌木の奥を見る。

神を傷つけたのはエステル。

けれど今の自分は、その名を被ったまま、神に「助けに来た」と信じさせなければならない。

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