第60章

小沢かなは、布団の端からそっと頭だけをのぞかせた。

「……もう、行った?」

「行った」

ほっと息を吐いたかと思うと、今度は我慢できないとばかりにノアを軽く押し、むくれた声をぶつける。

「ぜんぶあなたのせいよ。なんで羊なんかに変身して――」

「悪かった」

少年は立ち上がり、どこか心のこもらない会釈をした。

「どこ行くの?」

かなは彼の手首をつかむ。

少年は背を向けたまま言う。

「服を着ろ。外まで送る」

「やだ!」

少女は譲らない。服をひっつかんで、彼の胸に投げつけた。

「エステル」

少年は素早く受け止め、眉をひそめる。

「……エ、エ、エ……なによエステルって! あ...

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