第3章
翌朝、ソファで目を覚ますと、彼の上着が私に掛けられていたが、本人はもういなかった。
カーテンの隙間から差し込む陽光が、何もかもを美しく見せてくれる。伸びをすると、思わず笑みがこぼれた。
昨夜のことは、本当にあったんだ。私たちは、本当に結ばれたんだ。
服の乱れを直し、ダイニングルームへと急ぐ。彼はそこで朝食をとっているはずだ。
「おはよう、悠真」
ダイニングルームに入った私の声は、自分でもわかるくらい甘く弾んでいた。
彼は新聞を読んでいた。私の声を聞いて、その指先がわずかに硬直する。
「おはよう、由香里」
彼の声は……落ち着いていた。落ち着きすぎていた。
彼の隣に座り、期待に満ちた目で見つめる。「昨夜のこと……」
「昨夜は飲みすぎていたな」彼は新聞を置くと私を見たが、その瞳に私が期待していたような優しさはなかった。「止めるべきだった」
私の笑みはゆっくりと凍りついた。「どういう、意味?」
「昨夜のことは、あるべきではなかったということだ」彼の声は恐ろしいほどに冷静だった。「君はまだ若い。本当の気持ちが何かなんて分かっていない。あれはただの衝動だ」
「違う……衝動なんかじゃ……」私の声が震え始める。「私が言ったことは、全部本心だったのに……」
「由香里」彼は私の言葉を遮った。「君は感謝や依存を愛情と勘違いしている。それはよくあることだが、本物ではないとお互い認識すべきだ」
「どうして?」涙が込み上げてきた。「どうしてそんなこと言うの? 昨夜は、あなただって……」
「昨夜は俺も我を失っていた」彼は立ち上がった。「君の後見人として、あんなことを許すべきではなかった。昨夜のことは二人とも忘れて、元の生活に戻るべきだ」
私は呆然と座ったまま、彼が何事もなかったかのようにカフスを直すのを見ていた。
「本当に……そう思ってるの?」
彼は動きを止め、長い間、私に背を向けたまま立っていた。
「ああ」やがて彼は言った。「昨夜のことは忘れろ、由香里。何もなかったことにするんだ」
そして彼はダイニングルームを出て行き、私を一人そこに残した。
涙が静かにこぼれ落ちたが、私は自分に言い聞かせようとした。彼には時間が必要なだけ。急な変化に怯えているだけ。本当は昨夜のことを忘れたいわけじゃない、と。
十八歳の誕生日の朝に受けたその痛みは、今も私の心に深く刻まれている。『昨夜のことは忘れろ』という言葉は、ナイフのように私の胸に突き刺さった。
でも、私は忘れなかった。
そしてもっと皮肉なことに、彼も忘れてはいなかったのだ。
私たちが本当に「何もなかったことにする」のだと思っていた、わずか二週間後。彼は私のアパートに現れた。説明も、謝罪もなく、ただ長い抑制の末の、激しい独占欲と狂気だけを伴って。
その時から、私たちのこの隠された関係は始まった。
昼間、彼は私の冷たい後見人。
夜、彼は私の情熱的な恋人。
「コン、コン、コン」
控えめなノックの音が、私の追憶を中断させた。ルームメイトの美和子が顔を覗かせる。「由香里、今日はカフェテリア行かないの? もう二時よ」
「すぐ行く」私は無理に笑みを作って立ち上がり、昨夜引き裂かれた服を整える。鏡に映る首筋には、まだうっすらと赤い痕が残っていて、慌ててスカーフで隠した。
昨夜も彼は来た。そしていつも通り、その後は何も言わずに去っていった。
『覚えておけ、これはただの肉体的な欲求だ』
寮の部屋に来るようになってから、彼が私に一番よく口にする言葉だった。
午後二時のカフェテリアは喧騒に満ちていた。私は機械的に食事の列に並ぶ。トレーを持って席を探していると、背後から聞き慣れた声がした。
「由香里?」
硬直したように振り返ると、隅のVIP席で、数人の中年男性と一緒に座っている悠真の姿があった。非の打ちどころのないダークグレーのスーツを身にまとい、その表情はどこまでも無関心で――まるで昨夜、私のベッドで理性を失っていたのが彼ではなかったかのように。
「おじ様?」私は声の震えを抑えるのに必死だった。
「こっちへ来なさい」悠真は私を手招きした。その口調は、年長者の気遣いに満ちている。「私の友人たちに挨拶を」
私はややふらつく足で歩み寄った。ほんの数ヶ月では、この分裂した感覚にはとても慣れることができない。
「以前お話しした、私の養女です」悠真はテーブルの他の面々に私を紹介した。「由香里。とても行儀が良くて、聞き分けのいい子なんですよ」
いい子?
昨夜、ベッドで彼の激しい要求に耐えていた人間が、今「いい子」と呼ばれている?
「黒崎さんは本当に思慮深い」金縁の眼鏡をかけた男が称賛した。「今の若い者は放縦すぎる。厳しくしつける必要があります」
「ええ」悠真は頷き、その視線が私の顔をなぞった。「私はずっと、この子には清純な娘でいるように、悪い影響からは遠ざかるようにと教えてきました」
清純?
顔が燃えるように熱くなり、胃がむかつくのを感じた。昨夜、彼は私をそんな風には扱わなかった。
「おじ様の言う通りです」私は無理に笑みを作った。声が少し掠れていた。「私はずっと、いい子でいます」
悠真は満足げに頷いた。「食事に行きなさい。お腹を空かせてはいけないよ」
そうやって、私はあっさりと追い払われた。まるで昨夜の情熱と狂気が、彼の人生における些細な出来事に過ぎなかったかのように。
「あのイケメンは誰?」席に戻ると、美和子が興味津々に尋ねてきた。「普通の保護者には見えないけど」
「ただ……私の学業をすごく気にかけてくれてるの」私は蝋を噛むように味気ないスープを機械的にかき混ぜた。
「彼の視線、すごく特別だったわ」美和-子は声を潜めた。「あなたを見るとき……一種の独占欲があった」
独占欲?
心臓が跳ね上がり、スープ皿をひっくり返しそうになった。
「考えすぎよ」私は慌てて否定した。「彼は私のこと、娘みたいに思ってるから」
そう言いながらも、自分でも馬鹿げていると思った。
日々はそうして過ぎていき、悠真との関係はますます歪んでいった。彼の支配が私の交友関係にまで及んでいることに気づいたのは、大学二年の文学の授業中のことだった。
「由香里、どうして直哉の連絡先がスマホから消えてるの?」美和子が私の連絡先リストを見ながら、不思議そうに尋ねた。
直哉は文学の授業で一緒のクラスメイトで、最近よく口実を見つけては私に話しかけてくる、明るく爽やかな男の子だった。
「間違って消しちゃったのかも」私は罪悪感を覚えながら答えた。
実際には、私のスマホから男子学生の連絡先が不思議と消え続けることに気づいていた。最初はシステムの不具合かと思っていたが、昨日、図書館の外で亮介が私と全く同じ機種のスマホを手にしているのを見てしまったのだ。
私のスマホを監視している?
その考えに背筋が凍った。
「変なの。今日、直哉があなたを見て、まるで幽霊でも見たような顔してたわよ」美和子は続けた。「こっちに来て挨拶しようとしたのに、あなたの後ろにいる運転手さんを見たら、顔が真っ青になって怖気づいちゃったの」
私がはっと振り返ると、案の定、亮介が少し離れた場所に立ち、無表情でこちらを見ていた。
私が誰と話したか、悠真に報告しているの?
もう耐えられなかった。授業が終わると、私は亮介を追いかけた。「私が誰と話したか、彼に伝えたの?」
亮介は私の視線を避けた。「お嬢様、ボスはただ、お嬢様の安全を心配しておられるだけです」
「友達を作ることさえ許されないの?」私の声には絶望が滲んでいた。
亮介は一瞬黙った。「お嬢様は、ボスにとって最も大切な方なのです。誰にもお嬢様を傷つけさせたくないのです」
最も大切な人? 私は思わず笑いたくなった。
本当に大切なら、なぜ人前で私のことを「子供」と呼ぶの? なぜ、肌を重ねるたびに決まって「ただの肉体的な欲求だ」なんて言うの?
