第30章 申し訳ありません、奥様は……

神谷承吾は、胸の奥で増殖し続ける恐慌を、怒りで塗りつぶそうとしていた。

全部、神谷彩夏の自業自得だ。先に人を陥れたのも、悔い改めなかったのも、追い詰められたのも――全部、あいつ自身のせい。

いつもなら、その理屈で自分を納得させられた。

だが今は違う。砂で積んだ城みたいに、心底から押し寄せる不安の波にひと撫でされただけで、あっけなく崩れ落ちた。

どれほどの時間が過ぎたのか。

廊下の照明が落ち、窓の外が白み、太陽が昇る。――そして、手術室の扉が開いた。

看護師が駆け出してくる。表情は硬く、そのまま神谷承吾のもとへ早足で寄ってきた。

一瞬、逃げたい衝動が喉元までせり上がる。

それで...

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