第52章 ここの水を汲み干す

「正気かよ?!」

鳴瀬正樹が駆け寄り、神谷承吾の襟首を掴む。声が震えていた。

「もう死んでるんだ! そんなふうに抱いてたって、生き返るわけないだろ!」

神谷承吾は、ゆっくりと目を上げた。

かつて冷たく鋭かったその瞳は、まるで生きたまま眼球を抉り取られたみたいに、虚ろな穴だけを残している。涙すら、もう出てこない。

「分かってる」

掠れた声は、ほとんど聞き取れないほどだった。

「分かってる……死んだってことくらい」

彼は手を伸ばし、そっと彼女の眉と目元をなぞる。

「でも……抱いていられる。まだ、そばに置ける」

喉の奥で息を詰まらせるように、彼は続けた。

「名前を呼んで……一...

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