第58章 一つ一つ、すべて返してもらう

「……いや……やめて……」

震えた声が、言葉にならない。

「お願い……やめて……」

神谷承吾が、彼女の前にしゃがみ込んだ。

手にした小さなヤスリを、氷室の薄暗い灯りの下で彼女の目の前に掲げる。見えるように、逃げ場を塞ぐように。

小さい。鈍い。先には、黒ずんだ赤がこびりついていた。

「これが何だか分かるか」

菅野詩音は必死に首を振った。涙が、頬の血と混ざって伝い落ちる。

「俺の彩夏は、これで自殺した」

声は淡々としていた。今日の天気でも話すみたいに、冷たく平らで。

「ほら、こんなに小さい。お前の小指と同じくらいだ。こんなに鈍いのに――」

次の瞬間、その声だけがやけに耳に刺...

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