第50章

原崎野矢視点

 俺は一瞬、耳を疑った。

 広瀬妃菜の華やかな顔が、息が触れそうな距離にある。瞳は欲情で潤み、薬のせいで目尻が赤い。唇はわずかに開き、荒い呼吸が漏れていた。

 表情も、視線も、吐息も――全部が俺を誘っている。

 医者がわざとらしく咳払いをすると、薬箱を提げて部屋を出ていった。

 俺は妃菜の手を握り返す。自分の声まで、熱に侵されたみたいに掠れていた。

「広瀬妃菜。自分が何言ってるか、分かってんのか」

「分かってる」

 妃菜はごくりと唾を飲み込む。俺が信じないと思ったのか、顎を上げ――そのまま俺の喉仏に唇を寄せ、含んだ。

 びくっと全身が強張った。電気が走るみたい...

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