第130話私を置いて行かないで

 ~ヘルメス~

 手のひらにうめき声を落とし、こめかみを揉む。鈍い痛みが頭蓋の内側いっぱいにじわじわと広がっていた。昨夜のことは、きれいさっぱり霞の中だ。ナターリヤが注いでくれた酒のかすかな味だけは覚えている。そして……その先は何もない。記憶喪失。完全に、徹底的に、何ひとつ残っていない。

 ふと疑念が胸をよぎる。彼女、俺に薬でも盛ったのか? だが、すぐに首を振った。いや。そんなことはしない――いや、絶対にしないとまでは言えないが、それでも……気づくだろう、普通は。本人に聞けばいいのかもしれない。だが、目を覚ましてから彼女の姿はどこにもない。会社の様子だって、ろくに見ていない。朝からずっとだ...

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