第152話時間がない

~ヘルメス~

「いま……何が起きた?」俺は呟く。声は強張り、心臓が肋骨を叩くみたいに暴れている。

違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。

くそ。くそ。くそ!

俺は本当に――本当に――彼女を忘れた。ジューン。顔も、声も、目も……あらゆる細部が、一瞬だけきれいさっぱり消えた。手のひらに歯を食い込ませ、両手で顔を覆う。頭の中がぐるぐる回る。

忘れたふりをしていたのが……実際に忘れてしまった。まずい。これはまずすぎる。

部屋の中を行ったり来たりする。胸が上下し、彼女の顔に走る痛みの影、刺すような傷つき方を想像してしまう。あれが芝居だと分かってさえいれば……だが、あの一秒だけは、芝...

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