第169話彼女に恋をする

   ~ヘルメス~

 テッドはゆっくりとため息をついた。

「ヘルメス、もう説明しただろう……選択的記憶喪失だ。心的外傷っていうのはそういうものなんだよ。覚えていることもあれば、抜け落ちることもある。でも――」

「わかってる」

 俺は両手で髪をかき上げ、そのまま後頭部で指を組んだ。

「わかってるんだ。少しずつ全部戻ってくるはずなんだろ。だけど、俺は――」

 声がひび割れた。

 情けない。

「ただ……彼女のことを忘れるべきじゃなかった気がするんだ」

 テッドの眉が寄る。鋭い好奇心がそこに宿り、彼は身を乗り出した。

「どうしてそう思う?」

 俺はためらった。喉がきつく締まり、言葉が恥のよ...

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