第186話ダークネス

 ~ヘルメス~

 闇。

 穏やかな種類のものではない。重く、果てしなく、胸を押し潰し、息をすることさえ任意のように思わせる闇だ。

「ヘルメス、あなた」

 ナタリヤの声。

 俺は鋭く振り向き、脈が跳ね上がる。「ナタリヤ?」声が反響し、虚無に丸ごと呑み込まれていく。

 そんなはずがない。

 ナタリヤは死んだ。

 その事実が吐き気を催すほど鮮明に落ちてくる。俺は知っている。覚えている。なのにどうして、彼女の声が肋骨に食い込む鉤のように、この闇の中を縫ってくるのだろう。

「ヘルメス、あなた。こっちへいらっしゃい」

 その言葉は俺の前方へと漂い、誘うように、懐かしく、そしてどこかがお...

ログインして続きを読む