第86話脱がせてあげる

六月

わたしはソファにあぐらをかいて座り、仕事に着ていったブラウスのままだ。帰ってきてから何時間も経つのに、頭の中はあのばかげた瞬間を何度も巻き戻している――彼の唇、気づかないうちに拭って舐め取ってしまった、マスタードジャムのかすかな跡。彼の下唇は柔らかくて、張りがあって、冷たくて、甘かった。

なんであんなふうに感じたの? わたしはシャツの裾を引っ張りながら、首を振って小さく呟く。

ただのジャムよ、ジュン。考えすぎ。ジャムだった、それだけ。

自分でも動かしたことに気づかないまま、指先がまた口元へ吸い寄せられる。

「おっとぉ」ドア口からケイラの声が飛んできた。「なんで指が唇の上にあるの...

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