第96話列車事故

六月

もう何分も経つのに、彼は何ひとつ口にしない。ただ煙草の吸い殻を地面に弾き落とし、靴先でぐりっと踏み潰すと、壁にもたれ直した。その佇まいには、時間などいくらでもある人間の余裕が滲んでいる。

わたしは腕を組んだまま立ち尽くし、彼を見つめ、待っていた……何かを。ひと言でも、反論でも、あるいは冷たく突き放す言葉でもいい。これが彼にとって、ただの無意味な遊びじゃなかったと証明してくれるものを。終わりにしてほしくないのだと。たとえそれが、わたしを大切に思っているからじゃなくても、少なくとも彼がいつも欲しいと言っていたもの――わたしの身体のためにでも。

けれど時間は、石より重たく引き延ばされてい...

ログインして続きを読む