第56章

午前九時。秦野グーグル本社ビル。

林夕葵は最上階社長室の重たい木扉を押し開けた。

室内では、秦野彰がエグゼクティブチェアに深く腰掛け、写真を一枚、指先で弄んでいる。デスクの前に立つ上原淳史は声を潜め、報告の続きを述べていた。

物音に、二人が同時に振り向く。

林夕葵は迷いなくデスクへ歩み寄り、茶色い紙袋を――乱暴に――天板へ放った。

封はしていない。赤い判の押された銀行の取引明細が、するりと滑り出る。

「上原副社長もいるなら話が早いわ。わざわざ、もう一度来る手間が省けた」

淡々とした声。

秦野彰は手にしていた写真を裏返しにして机へ伏せ、眉間に皺を寄せる。

「……何しに来た。こ...

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