第58章 当たり屋

「会社には行かない。N市へ」

秦野彰が車へ向かって足を踏み出すと、木村さんは一瞬ぽかんとして、慌てて後部座席のドアを開けた。

N市。三浦結奈は、あの児童養護施設の子が転々とした末、N市の中継拠点に送られたと言っていた。秦野彰は昨夜一睡もできず、施設の資料を三回も読み返した。見れば見るほど、写真の子どもが辰樹にしか見えない。

車が走り出した途端、スマホが鳴った。

林遥香からだ。

秦野彰は一拍だけ迷って、通話に出た。

「彰……」

泣き声混じりの声が耳に刺さる。

「安吾が……安吾が熱出して、三十九度五分……ずっとパパって、パパって……!」

秦野彰は眉間に皺を寄せた。

「病院へ連...

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