第3章
昨夜の涙で、私の幻想はすべて洗い流されたはずだった。
翌朝、私は工房のろくろに向かっていた。濡れた粘土を相手に指を踊らせるように動かし、ものを作るという純粋な喜びに没頭しようと努めていた。亮介は昨日、今日は工房に来ると約束してくれた。彼が一度「似合う」と言ってくれた、あの青い作業着ワンピースまで着て。
その静寂を打ち破ったのは、私のスマホだった。
「ごめん、今日行けなくなった。静香が精神的に不安定で、俺が完全にそばにいてやらなきゃいけないんだ。俺たちのことは、彼女が落ち着いたら話そう」
それだけ。説明も、まともな謝罪もない。電話ですらなく、ただ冷たいメッセージが一件。
私は画面を凝視した。手から滴る粘土が、まるで私の心が流す血のように、スマホの上に落ちていく。彼女が落ち着いたら? それっていったい、いつになるっていうの?
手の甲で、粘土だと思ったものを顔から拭うと、それが粘土ではないことに気づいた――涙だった。ああ、もう涙は枯れたと思っていたのに。
気を紛らわすために、インスタグラムを開いた。人生で一番馬鹿な決断だった。
最初の投稿は、空港にいる亮介だった。彼の手は、私が一度も見たことのないような優しさで、女性の顔を両手で包み込んでいる。キャプションにはこうあった。「おかえり、静香ちゃん」
静香ちゃん。そんな風に呼ばれたことなんて一度もない。そもそも「ちゃん」なんて言葉すら、ほとんど口にしなかったくせに。
新井静香の顔をズームする。飛行機を降りたばかりだというのに、彼女は息をのむほど美しかった。空港の照明を弾く金色の髪、彼女が着ればオートクチュールにしか見えないシンプルな白いドレス、そして涙に濡れた瞳でさえ、人の心を打ち砕くほどに魅力的だった。
これが、違い。彼女は涙を流していても、忘れられない元恋人のまま。それに比べて私は? 精一杯お洒落したって、彼の目には使い捨ての遊び道具にしか映らない。
夕方になり、私は桜霞市に新しくできたイタリアンレストランで夕食をとることにした。ロマンチックな食事がしたかったわけじゃない――ただ、工房に一人でいると気が狂いそうだったからだ。
運命というやつは、つくづく意地が悪いものだ。
レストランにたどり着くかどうかのところで、見慣れた黒いマセラティが目に入った。床から天井まである大きな窓ガラス越しに、亮介と静香が窓際の一番良い席に座っているのが見えた。
踵を返して立ち去るべきだった。でも、私の足は地面に釘付けにされたようだった。
亮介が静香の肩にコートをかけている。まるで高価な磁器でも扱うように。私にそんなことをしてくれたことなんて一度もなかった。デートの時、私はいつも自分で車のドアを開け、自分で食事を注文し、支払いは割り勘だった。
「つらいことがたくさんあったのは知ってる」亮介の優しい声が、ガラス越しに聞こえてくる。「でも、もう大丈夫だ。俺が君を守る」
胸の奥で何かが爆ぜた。優しくなんて、できるんじゃない。ただ、相手が私じゃなかっただけ。
ウェイターが二人にシャンパンを注ぐ――一本何万円もする高級品。亮介と出かけた時に彼が注文するのは、決まって安物のワインだった。
静香が亮介の顔に触れると、彼は忠実な子犬のように彼女の掌にすり寄った。その光景に、胃がむかむかした。
私は振り返って走り出した。通行人の視線も気にせず、自分の車まで一目散に。エンジンをかけると、ようやく嗚咽が漏れた。
これが現実。私が彼の恋人になれないのは、その位置にはもう主がいたからだ。
夜が更け、私は疲れ切った体を引きずって工房に戻った。今日はもう、打ちのめされるのはたくさんだった。仕事に没頭して、この忌々しい心痛を疲労で麻痺させたかった。
しかし、工房の前には見たこともない銀色のロールス・ロイスが停まっていた。
桜霞市のような場所でも珍しい、少なくとも五千万円は下らないであろう車。銀色のボディは磨き上げられ、街灯の光を滑らかに反射している。
私が近づくと、車のドアが開いた。
降りてきた女性を見て、私は「存在感」という言葉の意味を瞬時に理解した。
新井静香は完璧に仕立てられた黒いスーツを身にまとい、その一歩一歩が私の心臓を踏みつけるようだった。金色の髪は優雅なシニヨンにまとめられ、首には私の年間の家賃より高そうな真珠のネックレスが輝いている。彼女の前に立つと、自分がまるで泥人形のように感じられた。
「村上さん」彼女の声は、その見た目と同じくらい完璧で、育ちの良さが一言ごとに滲み出るようだった。「新井静香です。少し、お話しすべきことがあると思いまして」
衝撃が走ったが、私は両脇に隠した拳を握りしめ、自分が動揺していることを彼女に悟らせまいとした。「何についてです?」
彼女が一歩近づく。その瞳が、伝説に語られる貴族の血筋の証であるかのような、稀有な菫色をしていることに気づいた。
「亮介のこと……そして、いくつか他のことも。明日、ランチでもどうでしょうか? あなたに伝えなければならないことがありますので」
彼女はエルメスのバッグから名刺を取り出した――名前と電話番号だけが記された、私が今まで触れたどんなカードよりも上質な紙だった。
「何でですか?」私はそのカードを受け取り、無意識にその滑らかな表面を指でなぞっていた。
「村上さんが真実を知るべきだと思いますから。村上さん自身の、ね」
それだけ言うと、彼女は車の方へ向き直った。そのヒールの音は、まるで戦いの始まりを告げるドラムのように舗道に響いた。
ロールス・ロイスは夜の闇に消え、後にはシャネルの微かな香りと、乱れる私の思考だけが残された。
アパートに戻り、私はベッドに腰掛けて、何度もその名刺を眺めた。
彼女は何を言いたいの? 勝利を自慢しに来た? 昔の貴族みたいに、私を辱めるため?
でも、「真実」ってどういうことだろう。私自身の?
私の視線は、まだ開封していないDNA報告書に落ちた。
スマホを手に取り、静香にメッセージを送る。「いいです。明日のランチ。でも場所は私が決めます」
返信は、ほとんど間髪入れずに来た。「ええ、もちろんです。お話しできるのを楽しみにしておりますわ」
