第34話

Ⅰ 黒瀬綾子

あのマンションから追い出された瞬間、ハイヒールの踵がドアの隙間に引っかかりかけた。黒瀬千夏が私の腕を支える。娘の顔は真っ赤で、呼吸まで荒い。

車へ滑り込むなり、私はドアを乱暴に閉めた。窓の外ではネオンが一本、また一本と流れていく。まるで私の惨めさを笑っているみたいに。

「ママ、白石紗月って、私たちのこと完全に無視したよね? いったい何のつもり?」

黒瀬千夏の声は甲高く、耳に刺さる。

「さっき『もうお兄ちゃんはいらない』とか、『離婚する』とか言ってたし……あれ、本気じゃないよね? 今ネットじゃお兄ちゃんが叩かれてるの。愛人を野放しにして妻をいじめさせてる、って。ここで白...

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