第58話

「黒瀬蓮、離して!」

黒瀬蓮の言い草がおかしくて、怒りより先に笑いがこみ上げた。私は迷いなく彼を押し返し、薬の入った袋を持ち上げて見せる。

「あなたのお母さんのお見舞いに来たんじゃない。薬を取りに来ただけ」

「それから、忘れたの? あなたのお母さんの怪我は、本人が転んでできたもの。私の怪我は……あの人が殴ってできたものよ。謝るべきなのは、私じゃなくて黒瀬綾子のほう」

「おまえ……」

黒瀬蓮が眉を寄せ、反射的に怒鳴りつけようとした――けれど、私の頬の傷に視線が触れた瞬間、唇をきゅっと結び直す。声の温度だけが少し下がった。

「その顔……大したことはないのか」

「お礼を言うなら、お母...

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