第60話

「え? 藤崎杏奈さんのその傷、黒瀬蓮にやられたんじゃないの? じゃあ、あなたを殴ったのは誰?」

美玲は口元を押さえ、いかにも驚いた顔を作った。

けれど、その驚きは――白々しいほど作り物だった。

「あなた……っ」

その態度が目に入った瞬間、藤崎杏奈の怒りはさらに燃え上がる。今にも罵声を浴びせようと口を開きかけた、その時。

私はふいに立ち上がった。

「美玲。本当に、藤崎杏奈を殴った相手が誰か分からないの?」

「白石紗月、何を言ってるの。意味が分からな――」

美玲は腕を組み、いつものようにとぼけようとした。

だが言い終える前に。

ぱぁんっ、と乾いた音が病室に響いた。

美玲の頬...

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