第9章
東京の雨は、いつだって骨の髄まで凍みるような冷たさを孕んでいる。この街のすべての罪を洗い流そうとしているかのようだが、人の心だけはどうしても洗いきれない。
黒い傘の縁を伝って滴り落ちる雨粒が、革靴を叩き、泥混じりの濁った飛沫を跳ね上げた。
埋め戻されたばかりの墓穴の前に立ち、真新しい墓石を見つめる。
綾羽。
1996-2024。
名字はない。それがかえって、彼女という存在の純白さを高らかに宣言しているようだった。
たった一行。けれどそれは、永遠に癒えることのない傷跡のように、俺の心に刻み込まれている。
実のところ、自分が間違っていることなどずっと前から分かってい...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
9. 第9章
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