第3章

夕暮れ時、川西隼人が車で撮影所まで立花麗奈を迎えに行き、食事を共にすることになった。

彼女は私が助手席に座っているのを見るや、たちまち顔を曇らせた。

「隼人君、あなたと喧嘩はしたくないの。でも、こんな食欲を失くすような人を連れてきて、私の気分を害さないでちょうだい」

その美しい声には、有無を言わせぬ冷たさが含まれていた。

川西隼人はため息をつき、私の方を向いて言った。

「車で待ってろ」

「わかった」

私は答えた。

彼は車を降り、立花麗奈のためにドアを開けてやる。その動作はまるで壊れやすい宝物を扱うかのように優しかった。二人は笑いながら高級レストランへと入っていく。

私は車には戻らず、一人で薬局を探して薬を買った。支払いの際、重要マークをつけたメールをもう一度確認する。

それはアメリカのマサチューセッツ工科大学の教授からのもので、合格通知書がすでに発送されたこと、そして私が最高額の奨学金を得たことが記されていた。

本来なら、良い知らせのはずだった。

だが昨夜、川西隼人は家で私の合格通知書を目にし、私がなぜ彼の元を去りたいと言い出したのかを即座に理解した。

彼は合格通知書をずたずたに引き裂き、冷たく言い放った。

「お前が研究をしたいというのなら、俺が許した範囲でしかやらせない」

紙片がひらひらと床に舞い落ちる。まるで、決して消えることのない雪のようだった。私はその雪の中に立ち尽くし、春を見ることはできなかった。

夜九時過ぎ、川西隼人からメッセージが届いた。立花麗奈を家まで送るから、先に帰っていてくれ、という内容だった。

「今夜は泊まるんですか?」

彼を怒らせるかもしれないとわかっていながら、私はそう尋ねた。

すぐに返信が来た。

「お前が口出ししていいことじゃない」

その冷たい文字を見つめ、私は携帯をポケットに戻すと、タクシーで京都の古寺へと向かった。

京都の夜は、いつも古の静寂をまとっている。私は一人、母方の祖母の位牌の前に立ち、線香を一本手向けた。

煙がゆらりと立ち上り、心の中の重荷をいくらか運び去ってくれるかのようだった。

三千万円という金額は、川西隼人にとっては銀座での一夜の遊興費に過ぎない。

祖母は病に倒れる前、その金が彼にとって取るに足らないものだからといって、恩を忘れてはならないと言っていた。

だから私は三年間、川西隼人の言うことに何でも従ってきた——あの命を救ってくれた金を返すために。

「でも、私はこれからの人生を、私の理想と研究を、この身代わりの恋人という立場で消耗し続けなければならないの?」

祖母が答えをくれるはずもなく、聞こえるのは自分の心臓の音と、遠くから微かに響く鐘の音だけ。私は自分の答えを探すしかなかった。

高熱のせいで祖母の位牌の前で二時間ほど気を失っていた。目が覚めたとき、着信もメッセージも一件もなかった。ただ、火をつけた線香が僅かな火種を残しているだけ。まるで祖母が、私が目覚めるのを見守ってくれていたかのようだった。

体の埃を払い、ゆっくりとマンションへ帰った。

マンションは、まだ真っ暗だった。


カフェで、高橋香織が私の向かいに座っている。目の下にはくっきりとした隈があり、メイクもテレビで見るような精緻さはない。

彼女は憔悴した様子で、コーヒーカップの縁を絶えず指でなぞっていた。

「佐藤さん、あなたも立花麗奈を憎んでいることは知っています」

高橋香織は声を潜め、目に異様な光を宿して言った。

「あいつが川西隼人とホテルで夜を過ごした写真を撮りました」

彼女はバッグからスマートフォンを取り出し、一枚の写真をスライドさせて私に見せた。

写真には、川西隼人の腕に寄り添い、高級ホテルのエレベーターに乗り込む立花麗奈の姿が写っていた。

「あの『国民的女神』なんて呼ばれてるアイドルは、実は枕営業で成り上がったクズなんです」

高橋香織は冷笑した。

「あいつがどうして私の役を奪えたの? どうして川西隼人は私の芸能生命を断ち切ったりしたの?」

私はコーヒーカップを置き、静かに彼女を見つめた。

「香織さん、あなたの怒りは理解できます。でも、芸能界のいざこざに巻き込まれたくはありません」

高橋香織はフンと鼻を鳴らし、スマートフォンをしまうと、立ち去り際に一言だけ投げ捨てた。

「佐藤寧子、後悔しますよ」

その夜、立花麗奈と川西隼人の親密な写真は、すでにSNSのトレンドに上がっていた。

写真の下には、「業界関係者」によるタレコミとして、川西隼人には長年付き合っている彼女がおり、それは立花麗奈ではないと書かれていた。

タレコミ主はさらに一枚の盗撮写真を提供しており、そこに写る女性はショートヘアで、痩せ型、鼻の先に小さなほくろがあった——それは紛れもなく、二年前の私だった。

私の指は無意識に鼻の先のほくろに触れ、記憶が潮のように押し寄せる。

あれは祖母が亡くなったばかりの頃で、川西隼人はまだ私に対して辛抱強かった。彼は私を京料理に連れて行き、そこの味付けが祖母のそれに似ていると言った。その日の日差しが心地よく、障子を抜けて畳の上にまだらな影を落としていたのを覚えている。

川西隼人は私を見つめ、珍しく優しい表情を浮かべていた。

「寧子、これからは俺のこと、隼君って呼んでいいよ」

彼は言った。

私は首を横に振った。

「川西さん、慣れませんので」

彼は少しがっかりしたようだったが、無理強いはしなかった。

後になって知ったことだが、「隼君」とは立花麗奈が幼い頃から彼を呼ぶときの呼び方だった。彼が私にそう呼ばせたかったのは、ただ立花麗奈の影を探していたに過ぎない。

回想を終え、私はスマートフォンを閉じた。心は不安で満たされていた。

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