第10章 愛することと愛さないこと

薄井礼央はふと何かを思い出したように、表情がわずかに強ばった。だが次の瞬間には何事もなかったかのように戻り、ナイフとフォークを置いて、早口で言う。

「秘書に、もう一つケーキを持ってこさせる」

スマホを取り出し、秘書の番号にかけた。

その間、名取佳奈は止めもしない。ただ氷みたいに冷えた目で彼を見ていた。

コールが繋がった、その刹那――薄井礼央は反射的に言葉を吐き出す。

「今すぐ、ひとつ買って……」

そこまで言いかけて、ぶつりと止まった。

妙な沈黙が、リビングいっぱいにじわじわと広がる。

薄井礼央は数秒、固まったあとでようやく顔を上げ、名取佳奈を振り返った。視線が、どこか複雑に揺...

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