第25章 彼女にキスしたい?

薄井礼央は食卓いっぱいに並んだ料理を睨みつけ、眉間の皺をいっそう深くした。顔色も、底冷えするほど陰っている。

次の瞬間、あとから階段を下りてきた田中さんが、鏡をそっと彼の前に差し出し、遠回しに告げた。

「旦那様、シャツが汚れております。よろしければ、こちらでクリーニングに出しましょうか」

この家で田中さんが敬語を徹底するのは、薄井礼央の前だけだ。

旦那様は雇い主のようで、奥様は――友だちみたいに接してくれる人。奥様のほうが、ずっと親しみやすい。

鏡越しに薄井礼央はようやく、シャツの胸元に残る口紅の跡に気づいた。表情が、かちりと固まる。

名取佳奈がさっき、あんな反応をした理由がよう...

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