第70章

未来(みらい)の手が、自身の意思に反して心臓を鷲掴みにするように胸元を押さえた。そこから発せられる鋭い痛みは、呼吸さえも困難にするほどだった。

どうして忘れてしまっていたのだろう。あんなにも大切なものを。

記憶の奔流が、一瞬にして彼女を飲み込んだ。

あのバッジ。

それは当時、羽龍(うりゅう)の会社が運営に行き詰まり、資金の供給が断たれ、倒産の危機に瀕していると知った彼女が用意したものだった。

あの日、ちょうど二人の結婚記念日のことだ。

彼女は無邪気にも、祖父が遺した莫大な遺産があれば、彼の抱える全てのトラブルを解決できると信じていた。

だからこそ、彼の大好物をテーブルいっぱいに...

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