第87章

一方、病院を後にした車内。

羽龍の顔色は、絞れば水が滴り落ちそうなほど陰鬱で、車内の気圧は恐ろしいほどに低く沈んでいた。

助手席に座る杏那は、男の強張った顎のラインを横目で見やり、恐る恐る手を伸ばした。彼の手の甲に自らの手を重ね、極限まで猫なで声を作って慰める。

「羽龍、そんなに怒らないで。未来お姉ちゃんはただ気が立っていて、それでついあんな口を利いてしまっただけよ」

口ではそう言いながら、心の中では冷笑が止まらなかった。

未来、まさか羽龍の目の前で他の男を庇うなんて。

今生(こんじょう)、あなたが彼と寄りを戻す可能性は、これできれいに消滅したわ。

あなたは自らの手で、最後の退...

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