第19章

「九条グループに、残業の習慣はない」

ドアの前に立つ男の低く冷ややかな声が、静かな室内に響いた。

琴音はペンを動かす手を止め、窓の外へ視線を向けた。そこで初めて、定時をとうに一時間以上過ぎていることに気づく。

どうりで、外から物音一つ聞こえないわけだ。

琴音はペンを置き、凝り固まった首の裏を揉みほぐしながら、少し気まずそうに目を伏せた。

「……作業に没頭していて、時間を忘れていました」

司に「残業好き」という印象を持たれるのは不本意だった。

司は何も言わず、ジャケットを片手に提げたままオフィスの中へ足を踏み入れた。

彼女のそばを通り過ぎる際、ふと足を止め、ぽつりとこぼす。

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