第26章

琴音はビクッと体を震わせ、赤い唇をきゅっと噛み締めた。あの頃の記憶が、再び脳裏に蘇ってくる。

両手を強く握り込み、彼を見つめる瞳に複雑な色が混じる。

「九条社長。男女のけじめがありますから、どうか離してください」

彼はもうすぐ婚約する身だ。それなのに、どうして自分に構い続けるのか。

琴音には彼の心が読めないし、読もうとも思わなかった。

和也との離婚問題すらまだ片付いていない。無意識のうちに、この男から距離を置きたいと体が反応していた。

彼に近づくのは、ある意味で和也よりも危険かもしれない。

琴音は決して忘れない。あの時、自ら距離を置いたのは司の方だったのだ。

心の底から相手を...

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