第3章
午前二時半。良平のいびきが暗闇に満ちていた。
彼の腕が私の肋骨を圧迫する。新しい痣が悲鳴を上げた。私は天井を見つめていた。鉄格子のように、防犯ブラインドの隙間から月光が差し込んでいる。
良平が身じろぎした。その重みで肺から空気が絞り出される。
「佳奈……君は俺のものだ……」彼は寝言でそう呟いた。
ちょうど、田中隆が昔言っていたのと同じように。
男は違えど、言葉は同じ。
私が六歳の時、お母さんが「私たちの新しい家」と呼ぶ場所の隅に隠れていた。壁紙が剥がれかけ、窓がきちんと閉まらない粗末な家だった。
お母さんはとても興奮していて、家中を案内しながら弾むような声で言った。「佳奈ちゃん、あの人のこと、お父さんって呼ぶのよ。私たちのこと、すごく大切にしてくれるからね」
田中隆は戸口に立っていた。警察署長の制服を着て、真鍮のボタンと権威をこれみよがしに纏っている。
「その通りだ、佳奈ちゃん。パパは自分の家族をどう扱うべきか、よく分かっている」
私が高い所の物を取るのを手伝ってくれる時、彼の手はいつまでも離れなかった。抱擁は長すぎた。その手は、私が身をよじるような場所を彷徨った。
「でも、本当のお父さんじゃない……」後でお母さんにそう囁いたが、お母さんは私を黙らせ、「感謝しなきゃだめよ」と言っただけだった。
二年後。ちらつくテレビの光と、田中隆のビールの匂いがする居間。
お母さんは食堂で夜勤をしていた。田中隆のトラックの修理代を払うため、ダブルシフトで働いているのだと彼女は言った。そのため、私はほとんどの夜を彼と二人きりで過ごすことになり、田中隆は私と『特別な時間』を過ごすようになった。
彼は言った。「これは私たちの特別な秘密だ、佳奈。お父さんのことで嘘をつく悪い子には、ひどいことが起きるんだぞ」
私は八歳で、それが間違っていると分かっていた。でも、田中隆が警察のバッジを付けていることも知っていた。彼は銃を持っていた。町で彼を見かけると、人々は敬意を込めて頷いた。警察署長より、幼い少女の言葉を誰が信じるだろう?
「俺は警察署長だ。人々がどっちを信じると思う?頭のおかしいガキか、それとも法か?」
初めて彼に性的暴行を受けた時、私は母を求めて泣き叫んだ。
「お母さん……」
田中隆はただにやりと笑っただけだった。「佳奈ちゃん、お母さんはここにはいないよ。今は、お前と俺だけだ」
泣けばもっとひどいことになるだけだ、と彼は言った。
白いタイルと消毒液の匂いがする、学校の保健室。
平野先生は白髪で、優しい手をしていた。彼女は痣に気づいた。私が誰かに触れられるたびに、びくりと体をこわばらせるのを見ていた。
彼女は尋ねた。「佳奈ちゃん、この痣……家で誰かに酷いことをされたの?」
私はすべてを話した。田中隆の特別な秘密。彼の手。悪いことが起きるという脅し。
私が泣いている間、彼女は抱きしめてくれた。何年かぶりに、誰かが私の話を聞いてくれた。
翌日、福祉相談員がやってきた。立川沙耶香。若くて真面目そうで、書類の詰まったブリーフケースを持っていた。
彼女は制服姿の田中隆に聞き取り調査をした。そこにあるのは、仕事上の丁寧さと、小さな町特有の敬意だけ。私は寝室の窓から、ポーチで話す二人を見ていた。
田中隆の声が聞こえてきた。自信に満ち、権威的で、法と秩序を体現した声。
立川さんが帰る時、彼女の顔は青ざめていた。車に乗り込む彼女の手は震えていた。
彼女は私に言った。「ごめんなさい。でも、確固たる証拠がないと、この件で動くことはできないの」
その夜、田中隆は私に事の重大さを思い知らせた。
彼は叫んだ。「ガキが作り話をするとどうなるか、分かったか?誰も信じやしないんだ」
その「教え」による痣は、何週間も消えなかった。
十二歳の時、私はついに勇気を振り絞ってお母さんにすべてを話した。彼女が仕事に行っている間に、田中隆がした恐ろしいことのすべてを。
彼女なら私を救ってくれると思った。母親は自分の子供を守るものだと思っていた。
でも、私は間違っていた。
彼女は叫んだ。「隆さんのことをよくもそんな風に言えるわね!あの人が私たちにすべてを与えてくれたのよ!」
私は泣きじゃくった。「お母さん、お願い!お母さんが仕事に行ってる間に、あの人は私にひどいことをするの!」
彼女の目は硬くなった。必死だった。三度の離婚を経験した彼女にとって、田中隆は世間体を取り戻すための最後のチャンスだったのだ。
「嘘をつくのはやめなさい、佳奈。隆さんはあなたを本当の娘みたいに愛してくれてるのよ。あなたこそ、少しは敬意を払うことを覚えたらどうなの」
私が「作り話」を続けるなら、児童養護施設に送ると彼女は脅した。
裏庭。夕日がすべてをオレンジと赤に染めていた。
私の救いは、十六歳の佐藤良平という形で訪れた。私は十二歳だった。彼は佐藤家の期待の星で、高校の野球チームのリーダー。将来を嘱望されていた。
私は古いブランコに乗って、心の平穏を探していた。そこで田中隆に見つかった。
彼の手が、触れてはいけない場所へと伸びる。私は、流す術を会得してしまった静かな涙をこぼし始めた。
良平が家の角を曲がってきて、そのすべてを見た。
彼は怒鳴った。「てめえ、何してやがる!まだ子供じゃねえか!」
それまで田中隆に逆らう者など誰もいなかった。だが良平は佐藤家の人間だった。山田郡では、警察一族の生粋の後継者だ。
田中隆は権威を振りかざそうと威圧した。「小僧、身のためだと思ったら、その口を閉じておくんだな」
しかし、十六歳の良平は正義感に燃えていた。「やってみろよ、オヤジ。町がどっちを信じるか、試してみようじゃねえか」
佐藤という名前には、田中隆では太刀打ちできない重みがあった。
田中隆は私から身を引いた。生まれて初めて、誰かが彼を退かせたのだ。
半年も経たないうちに、田中隆は早期退職した。「健康上の問題」と発表されたが、誰もが真相を知っていた。
良平が私を救ってくれた。
……そう、思っていた。
現在。私たちの寝室。
良平の腕が、私の胸郭を締め付けた。私は痛みに息を呑んだ。
彼が私を救ってくれたと思っていた。でも、彼はただ田中隆の代わりになっただけだった。
私は救われたんじゃない。譲渡されただけだ。ある支配的な男から、別の支配的な男へと。
彼はいつもこうだっただろうか……?それとも、私が感謝しすぎて、その兆候に気づかなかっただけ?
彼が私を安心させてくれた頃のことを思い出す。最後に心からそう感じたのは、いつだっただろうか?






