第1章
美咲視点
黒いヴェールが、口の端に浮かんだ会心の笑みを隠してくれた。
聖マルクス大聖堂に、オルガンが重苦しい葬送曲を奏でている。私は棺の前に立ち、貞淑な未亡人を完璧に演じながら、目に涙を浮かべてそっと拭う仕草をした。
中に横たわる黒田和也の遺体は、穏やかで、まるで人の好い老人のようだ。桜京の裏社会を三十年も牛耳ってきたボスが、まさか新しい妻のベッドで死ぬなんて、誰が想像できただろう? もっと正確に言えば、私が自ら混ぜたシアン化物のグラスの中で。
よし、あのクソジジイ、やっと死んだ。
三日前、彼の飲み物に毒を滑り込ませたとき、父の最期の言葉が脳裏に響いた。『美咲、黒田の人間を決して信用するな』と。残念ながら、父がそう言ったのは遅すぎた。和也はすでに、一発の銃弾で父の頭を吹き飛ばした後だったのだ。
「奥様、お悔やみ申し上げます。和也は偉大なボスでした」
組の者たちが次々と近づき、空々しいお悔やみを口にする。私は一人ひとりに涙目で応えたが、内心では歓喜に打ち震えていた。この馬鹿どもは、敬愛するボスが最も信頼していた女の手に掛かって死んだとは、夢にも思わないだろう。
「ありがとうございます。和也も、組が一つにまとまることを望んでいたはずです」
復讐の甘い高揚感に浸っていた、その時.......
バンッ!
聖堂の扉が、凄まじい音を立てて開け放たれた。私を含め、その場にいた全員が一斉に振り返る。
心臓が跳ねた。
光を背にシルエットになった長身の男が、黒服のボディーガードたちを脇に従えて立っていた。
男は、獲物を狙うかのように、まっすぐにこちらへ向かってくる。その一歩一歩が、石の床を震わせるかのように重く響き、私の心臓に直接打ち込まれるようだった。
距離が縮まるにつれて、彼の顔が鮮明に浮かび上がる――研ぎ澄まされた刃のようなシャープな顎のライン、彫刻のように高い鼻梁、そして、一切の感情を拒絶するかのように固く引き結ばれた唇。
しかし、何よりも私を射抜いたのは、何の躊躇いもなく私に突き刺さる、氷のように冷たく、鋭利な瞳だった。その視線は、私の内側まで見透かすかのように、容赦なく心を凍てつかせた。
黒田正雄。和也の一人息子にして、真の後継者。シチリアから戻ったばかりの。
クソッ。
群衆の中から囁き声が波のように広がった。「正雄様がお戻りになった……」「なぜ今頃になって……?」
彼はまっすぐ私に向かって歩いてくると、一ヤードもない距離で足を止め、氷のような視線で私を見下ろした。
「それで……」彼の声は低く、人を惹きつける響きがあった。「あんたが、親父を骨抜きにした女か?」
私は深く息を吸い、ゆっくりとヴェールを上げ、彼の視線を受け止めた。「黒田美咲と申します。あなたの継母です。このような形でお会いすることになり、残念ですわ」
「継母?」彼は私を値踏みするように見つめ、嘲るような笑みを唇に浮かべた。「ああ、そりゃ残念なことだ。特に、結婚して一ヶ月そこそこで未亡人になった若い女にとってはな」
このガキ、何が言いたいわけ?
「死は時を選びませんわ、正雄。私もあなたと同じように心を痛めております」
彼が冷たい笑い声を漏らし、何かを言おうとした。その時だった。
「美咲さん、大丈夫か?」緊張を断ち切るように、黒田圭が現れた。
和也の弟で、組のナンバーツー。三十代前半、黒髪を完璧に撫でつけ、仕立ての良いグレーのスーツは、その下の筋肉質な体を隠しきれていない。
「叔父さん」正雄が平坦な声で言った。
「正雄、お悔やみ申し上げる」圭は甥の肩を叩いた。「お前の継母さんは一日中大変だったんだ。少し休ませてやれ。組の話は、お前と俺、二人でしよう」
正雄の視線が私たち二人の間を行き来し、やがて頷いた。
聖堂の片隅に向かう二人を見送りながら、私は心の中で冷たい笑みを浮かべた。
葬儀の後、私は屋敷に戻り、自室へと滑り込んだ。
扉を開けた、その瞬間.......
暗闇から伸びてきた力強い腕が、私をドアに叩きつけた。熱く、焦れたような唇が、私の唇に激しく重なる。
一瞬もがいたが、すぐに馴染みのある香りに気づいた。
「圭……」彼の唇の合間から、喘ぐように名前を呼んだ。
「祝杯の時間だ、俺の復讐の女神よ」彼の囁きが耳を掠め、熱い吐息が私を震わせる。「勝利の味はもう感じたか?」
「圭、ここは危険すぎる……」彼の固い胸を押し返すが、私の体はすでに熱を帯び、彼の愛撫を求めていた。
「リスクがそそるんだろう?」彼は私の喪服のボタンを引きちぎった。「それに、お前はもう自由だ、美咲。全部、俺のものだ」
圭は私を抱え上げるとベッドに放り投げ、押さえつける。彼の手が体を這い、片方が乳房を掴んで強く捏ね、親指が乳首を執拗に嬲って痛みを感じるほどだった。
私は彼に応えるように体を反らし、彼の勃起が濡れた入り口を焦らすたびに、喘ぎ声が唇からこぼれた。
「感じろよ」彼は私の下唇を噛み、荒い声で言った。「これが勝利の味だ。復讐のスリルだよ」
彼の手が私の腰を掴み、指が肌に食い込む。その突き上げは執拗で、一突きごとに体が震え、私の爪が彼の背中を掻きむしり、もっと深くへと誘う。
「クソッ!」彼の太いモノが私の中に叩き込まれ、完全に満たされる。
「ああ~」私は叫び、獣のような突き上げが私を絶頂へと追い詰めていく。欲望がすべてを喰らい尽くす中、内壁が彼をきつく締め付けた。
むさぼるように体を重ねる中、ある記憶が蘇った.......
一年前、あの雨の夜、絶望の淵にいた私を圭が見つけ出した。
『お父さんが死んだ本当の理由、知りたくないか?』
『交通事故……ただの事故だって……』私は警察の説明を繰り返しながら、声を詰まらせた。私の父はただの会計士で、嵐の夜に車が崖から転落して死んだ。道が滑りやすかったこと、遺体は見つからず、大破した車の残骸だけがあったこと。
『デタラメだ!』圭は血まみれの写真をテーブルに叩きつけた。『俺の兄貴が頭を撃ち抜いたんだ! お父さんは、奴の武器取引の現場に居合わせただけ……運が悪かっただけだ』
写真には、血の海に沈む父が写っていた。目は大きく見開かれ、額にはぽっかりと銃創が開いていた。
『絶対に償わせてやる!』私は歯を食いしばり、拳を震わせた。
『なら、奴と結婚しろ』圭は私の手を握りしめて言った。『奴の妻になれ。そして、奴が最もお前を信頼したときに、あのクソ野郎を殺せ』
「一年間待ち続けて、役を演じ続けて、ようやく終わったのね」私は圭の耳元で喘いだ。
「これは始まりにすぎないぜ、美咲」彼の突き上げが、さらに激しさを増す。
私たちは、亡き夫の眠るベッドの上で、獣のように貪り合った。それは、血に塗れた勝利を祝う、乱暴で、しかし甘美な儀式。汗が肌を滑り、互いの吐息が混じり合い、背徳の熱が部屋を満たした。圭に所有されるこの快感は、世界の何物にも代えがたい、禁断の陶酔だった。
激しい潮が引いた後、私たちは互いの体温を求め、しがみついていた。圭の無骨な指が、私の汗で湿った髪を、まるで戦利品を慈しむかのようにゆっくりと撫でる。その指先の感触が、私を現実へと引き戻す。
「上出来だ、美咲。さて、次は息子の番だな」
