第3章
美咲視点
正雄は私の手を取り、近くの路地へと乱暴に引きずり込んだ。弾丸がヒュンヒュンと音を立ててすぐそばを掠めていく。
死をこれほど身近に感じたことはなかった。恐怖で全身が震えたが、正雄の強く握る手からは、なぜか不思議な安心感を覚えた。
「入れ!」
彼は裏口のドアを蹴破るように開け、薄暗い倉庫部屋に私を押し込むと、すぐさま内側から鍵をかけた。
その瞬間、狭い空間は私たちの荒い息遣いの音だけで満たされた。
すぐ背後に正雄が立っているのを感じ、神経が本能的に張り詰める。
永遠にも思える時間が過ぎた後、外の銃声が遠のいていった。
やがて完全に静かになると、私は恐る恐る振り返った。上の小さな窓から月明かりが差し込み、正雄の彫りの深い顔に険しい影を落としている。彼は壁に寄りかかり、その深い瞳で落ち着かないほどじっと私を見つめていた。
「どうして?」私が沈黙を破った。「どうして私を助けたの?あなたは私があなたのお父様を殺したと思っているはずよ」
正雄は一瞬黙ってから答えた。「あんたは黒田の人間だ。あんたを守るのが、俺の務めだ」
「務め?」私は鼻で笑った。「私があなたの所謂『継母』だから?」
「そうだ」彼の声は冷たかったが、その瞳には別の何かが揺らめいていた。「あんたが何をしたにせよ、親父の妻だったことには変わりない」
『嘘つき』
彼の眼差しには複雑な色が浮かんでいた――それはただの務めなんかじゃない。
「肩から血が……」白いシャツに滲む黒い染みに気づき、私は言った。
正雄はちらりと視線を落とす。「掠っただけだ」
「見せて。手当てが必要よ」私は彼に歩み寄った。
「必要ない――」
「シャツを脱いで」私は彼の言葉を遮った。反論の余地を与えない口調で。「血を流し続けたいなら別だけど」
彼は数秒間私を見つめてから、シャツのボタンを外し始めた。
『なんて身体……』
月明かりの下、彼の身体はまるで彫刻のようだった。広い胸板、引き締まった腹筋――隅々まで完璧に造り上げられている。左肩には浅い切り傷があり、まだ血が滲んでいた。
私はスカートの裾を破って布切れを作り、さらに近づいた。「動かないで」
近すぎた。彼のコロンと汗、そして硝煙の匂いが混じり合って、どうしようもなく官能的だった。
「痛む?」傷口を優しく拭いながら尋ねる。
「いや」彼の声は硬かった。
顔を上げると、彼が私の顔を凝視しているのに気づいた。その瞳は……飢えていて、危険で、それでいて抑制が効いていた。
「なぜ親父と結婚した?」彼が唐突に尋ねた。
私の手は微かに震えた。「言ったでしょう、愛していたから」
「愛?」彼は鼻を鳴らした。「二十三の娘が、五十八の男に惚れるか?」
「私、年上が好きなの」私は彼を挑発するように言った。
彼の顎に力がこもる。「あんたの『あらゆる』欲求を満たせるほどにか?」
その言葉に含まれた意味が、熱を帯びて重く空気にのしかかる。
「正雄……」私の頬が火照った。
「なんだ?」彼はさらに顔を寄せ、熱い息が私の顔にかかった。「照れてるのか?あんたは俺の継母だろ。――酸いも甘いも噛み分けた、『経験豊富』な女じゃないのか?」
『最低な男!』
「馬鹿にしてるのね」私は言い返した。
「馬鹿に?」彼の指が私の頬を掠めた。「ただ、どうやって親父を籠絡したのか興味があるだけだ。どんな手管を使ったんだ?」
彼の手が私の唇へと滑る。「この口か?」
そして首筋へ。「それとも、他の何かか?」
『くそっ!』
彼を突き放すべきだった。激怒すべきだった。なのに、彼の指先に身体が震えてしまう。
「だめよ、こんな……」私の声は震え、かすれた。
「だが、あんたは望んでる」彼は唸るように言った。「わかるんだ」
その通りだった。神様、どうかお許しください。私は、彼を欲していた。
「いけないことよ……」
「いけないことなんて、世の中にはいくらでもある」彼の唇が、私の唇のすぐ上にあった。「それでも、俺たちはやってしまうんだ」
そして彼は私にキスをした。彼の舌が飢えたように、執拗に私の口内を侵してくる。
突き放すべきだったのに、できなかった。私は彼にキスを返していた。
私たちは壁に激しく体を打ちつけ、彼の手が私のドレスを引き裂いた。ボタンが弾け飛び、布が破れて床に落ちていく。私は彼のシャツに爪を立て、その彫刻のような胸を露わにした。
「神よ、許してくれ」彼は私の耳元で囁いた。「あんたを初めて見た瞬間から、ずっと欲しかった」
その告白に、私の心臓は太鼓のように激しく鳴り響いた。私も彼を欲していた――神社の境内で、初めて視線を交わしたあの時から。
正雄の手が私の腰を掴み、指が肉に食い込むほど強く、さらに引き寄せられる。彼の口が私の乳房を探り当て、唇と舌が乳首を弄ぶ。疼くような快感が全身を駆け巡った。
「あっ……」濡れた舌が肌を焼く感覚に、私は喘ぎながら彼に身を預けた。
私の手は下へと滑り、彼の硬く昂った楔を握りしめる。手の中で脈打つそれをゆっくりと扱くと、彼は私の胸に顔を埋めて呻いた。「美咲!」
彼は私を抱え上げ、壁に押し付けると、一気にその身を突き入れた。彼の楔が私を押し広げ、完全に満たしていく。突然の充実に息が止まった。私は悲鳴を飲み込むために彼の肩に噛みつき、背中に爪を立てた。彼が動くたび、その深い突き上げが私を快感に震わせる。
彼は私の腰をさらに強く掴み、執拗に突き続けた。私の脚は彼の腰に絡みつき、もっと深くへと誘う。突き上げられるたびに私の核が彼にこすりつけられ、快感が爆発した。汗ばんだ肌が滑り合い、私たちの身体がぶつかり合う音が空気を満たしていく。
その激しさが全てを飲み込んだ――計画も、復讐も、何もかも。残ったのは、剥き出しの欲望だけ。
絶頂の瞬間、私の手が指輪に触れた――毒を隠した、あの指輪に。彼の肌を一度でも掻けば、それで……。
正雄は私の中に我を忘れ、完全に無防備だった。絶好の機会。
『やれ!復讐を果たすのよ!』
だが、私の手は震えていた。できない。
彼の真剣な表情、私の名を呟く声――私にはできなかった。
『私には、できない』
すべてが終わった後、私たちは互いにしがみつき、彼の呼吸がゆっくりと落ち着いていった。
彼の寝顔を見つめながら、嵐のような感情が胸の中で渦巻いていた。私はそっと彼の腕から抜け出し、静かに服を着る。そして、最後にもう一度だけ彼に目をやり、その場を後にした。
