第25章 あなたに償う

珍しく、彼はまっすぐ藤井愛美のもとへは向かわなかった。代わりに足を運んだのは、結婚前に住んでいたマンションだ。広くはない2LDK。内装はシンプルで、家具もひと通り揃っている。けれど、長いあいだ人の気配がないせいで、空気にはうっすら埃の匂いが漂い、ひやりと冷えた静けさだけが残っていた。

スイッチを入れる。

ぱちり。

白く無機質な灯りが、がらんどうのリビングを照らし出す。

ソファに、帰りを待って身を丸める影はない。キッチンから、湯気といっしょに広がる料理の匂いもない。寝室にも、ボディソープの香りをまとった、あの体温は残っていなかった。

酒井蒼真はリビングの真ん中に立ち尽くし、息のない空...

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