第30章 酒井蒼真、電話に出てよ!

心海は歯を食いしばった。

全身の力を振り絞り、背後の男の腹へ――肘を叩き込む。渾身の一撃に、相手が「ぐっ」と喉の奥で呻き、口元を塞いでいたタオルが一瞬だけ緩んだ。

――今だ。

心海はその隙に身を捩って抜け出し、前へと転がるように飛び出した。よろけて二歩、危うく転びそうになり、傍のテーブルに手をついて体勢を立て直す。息も整わないまま、なりふり構わずバーの奥へ駆け込んだ。

頭がどんどん重くなる。思考が鈍って、方向感覚が溶けていく。

どれだけ走ったのか、何度曲がったのかも分からない。意識はもう縁でぐらついていて、それでも歯を食いしばる。

――捕まるな。捕まったら終わりだ。

視界はすり...

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