第44章 さよなら、酒井蒼真

玄関には、キャリーケースが二つ。きっちり並べられて立っていた。パスポート、航空券、ビザ、入学許可証――必要な書類はすべて手荷物のバッグに入れてある。十回以上確認した。たぶん、もっと。

赤いドレスを脱いで、シャワーを浴びる。髪を乾かし、ソファに腰を下ろしてスマホを開いた。

三日前、松本淳太は国内のプロジェクトを終え、F国へ戻って研究に復帰した。見送りはない。たった一通、メッセージを交わしただけ。

心海はもう一度、松本淳太とのトーク画面を開く。

「先輩。こっちは片づきました。今から出ます。F国で」

送信。

一分も経たないうちに返事が来た。

『道中気をつけて』

その短い文字列を見つ...

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