第5章
「千鶴?」
直次の優しい声が、私を現実に引き戻した。
「何を考えているんだ?」
顔を上げると、彼の気遣わしげな眼差しが目に入り、胸の奥にふと温かいものが込み上げてくる。
「直次」
私はスマホをしまいながら言った。
「明日の仕事の件なんだけど、一つ考えがあるの」
「どんな考えだ?」
「私に代わって、龍二と関わる業務を全部あなたに担当してほしいの」
私の口調は、確固たるものに変わっていた。
「私は『記憶喪失』なんだから、過去の仕事の記憶なんて、当然存在しないはずでしょう」
直次は何かを考えるように頷く。
「確かに、その方が合理的だな。それに……」
「それに、何...
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