記憶喪失のフリをしたら、元カレが後悔し始めた

記憶喪失のフリをしたら、元カレが後悔し始めた

渡り雨 · 完結 · 15.9k 文字

1k
トレンド
1.1k
閲覧数
0
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

村田竜二と付き合って五年。結婚を意識し始めた私に、彼が放った言葉は「遊びだったのに、本気になってんの?」だった。

私は何も言わずに彼の前から姿を消した。

再会した時、私の隣には別の男性がいた。

逆上する彼に、私はただ困惑した表情でこう告げる。

「どちら様でしょうか?…人違いです。私には、婚約者がおりますので」

チャプター 1

「神崎さん、次も期待しています」

 私は最後の財界代表と優雅に握手を交わし、完璧なビジネススマイルを顔に貼り付けていた。

 オーダーメイドの濃紺のドレスが、成熟した私の輪郭をちょうどよく描き出している。龍神会本部の伝統的な庭園では、石灯籠がまだらな光と影を落としていた。

 ハンドバッグを持ち直し、帰ろうとしたその時、見慣れた人影が私の行く手を阻んだ。

「千鶴」

 その低い声は、重い一撃のように私の胸を打った。

 足が止まり、心臓が激しく跳ねる。

 龍二が石畳の真ん中に立っていた。黒いスーツが彼の長身をより際立たせ、その端正な顔立ちは記憶の中のままだった。

「一ヶ月も電話に出ないで、失踪ごっこか?」

 彼の視線が、私の剥き出しの背中と、周囲から私に注がれる微かな眼差しを捉える。

 彼はジャケットを脱ぐと私の肩にかけ、そのまま私を強く抱きしめた。

 私は瞬きを一つし、彼の腕から抜け出す。そして、努めて礼儀正しく、それでいて他人行儀な困惑を顔に浮かべた。

「どちら様でしょうか。どうかご自愛ください。私たちは親しい間柄ではございません」

 この言葉の効果は、思った以上だった。

 龍二の顔色が瞬く間に曇り、瞳孔が急激に収縮する。

「何だと?」

「どなた様でしょうか、とお尋ねしております」

 私は顔に浮かべた不可解な表情を崩さずに続けた。

「もし私のことをご存知でしたら、自己紹介していただけませんか?」

 龍二は足早に近づき、私の手首を掴んだ。

 あの馴染み深いオーデコロンの香りが鼻をつき、心の奥底に眠る痛みを瞬時に呼び起こす。心臓が胸から飛び出しそうだった。

「ふざけるな、千鶴。今夜は用事があるんだ。お前を宥めてる時間はない」

 龍二は少し眉をひそめ、苛立ちを滲ませた。

 彼の指が私の頬を撫でる。その慣れ親しんだ感触に、私はもう少しで気を緩めるところだった。

「まだ怒ってるのか? 家に帰って、ちゃんと話そう」

 私は冷ややかに一歩下がり、自分の手を引き抜いた。

「失礼ですが、ご自愛ください」

 彼の声量が思わず大きくなる。

「神崎千鶴! いい加減にしろ! ふざけるのも大概にしろよ、冗談に決まってるだろうが!」

 龍二が私のフルネームを呼ぶことは滅多にない。呼ぶということは、彼が怒っている証拠であり、私が折れて、頭を下げるべきだという合図だった。

 ただ、今の私は一ヶ月前の私ではない。

 冗談ですって?

 その言葉が導火線となり、私の心に埋もれていた怒りの炎が一気に燃え上がった。

『あんなお嬢様気質で、極道の妻が務まるわけないだろ? 遊びだよ』

『龍神会を継いだら、もっと有能な女を妻に迎えるさ。あいつは金糸雀として飼っておくのがお似合いだ』

 こんな言葉が、冗談になるというの?

 私の感情が暴走しかけたその時、落ち着いた人影が私の背後に現れた。

「何か問題でも?」

 直次が濃紺のスーツを纏い、礼儀正しくも毅然とした態度で私の前に立ちはだかる。

 彼の出現で、私は瞬時に冷静さを取り戻した。

 龍二の視線が私たち二人の間を行き来し、その眼差しに警戒の色が濃くなっていくのがわかる。

「あなたは?」

 龍二の口調が危険なものに変わった。

「私は千鶴の婚約者、三隅直次と申します」

 直次の声は水面のように静かだった。

「私の婚約者は先日の交通事故で、記憶に影響が出ておりまして。もし彼女のご友人でしたら、彼女に代わって私からお詫び申し上げます」

 龍二の顔色がさっと沈み、信じられないといった様子で繰り返した。

「婚約者?」

 私は唇をきゅっと結んだ。彼の注意は私が記憶喪失であることに向かうと思っていた。

 わざと記憶を失ったわけではない。ただ、父の厳しい表情を前にして、龍二と五年も付き合っておきながら、相手には全く結婚する気がないなどと、とても言えなかったのだ。

 この五年、父が彼を跡継ぎとして育ててきた最も大きな理由の一つは、私が彼を好いているからだったというのに。

 だから、いっそ記憶喪失になったことにして、すべてをやり直そうと思ったのだ。

 私はわざと眉をひそめ、龍二を見つめた。

「私のことをご存知なのですか? 私には全く覚えがないのですが……」

「先ほど、私を家に連れて帰るとおっしゃいましたよね? 私たちはどういうご関係なのでしょう。おかしいわ、父からもあなたのお話は伺ったことがありません」

 五年間も一緒にいたのだ。傷口のどこを抉れば一番痛むか、私は知っている。

 彼は自分が龍神会の跡継ぎだと自負している。だが、もし私の父がそれを認めなかったら?

 五年前、私は彼に一目惚れした。彼は冷淡な性格で、女嫌いで有名だったけれど、私の方から積極的にアプローチし、なりふり構わず彼を愛し、あらゆる手を使ってやっと付き合うことができた。

 彼は己の能力に自信があり、私が原因で父から優遇されていると外部に思われたくないため、私たちの関係を公にしてこなかった。

 そして今、機は熟し、結婚できると思っていた。

 結婚すれば、父も晴れて龍神会を彼に継承させることができる。しかし一ヶ月前、会合の外で盗み聞きしたあの言葉が、私の甘い夢を木っ端微塵に打ち砕いた。

 彼の目には、私はただの気ままに弄ばれる金糸雀で、妻になる資格すらないお嬢様でしかなかったのだ。

 龍神会が彼を指名したのは、彼の能力ゆえであり、私とは何の関係もない、と。

 あの夜、私の心は張り裂け、涙は堰を切ったように溢れ出し、そのせいで車をガードレールに衝突させてしまった。

 龍二の表情は硬直し、しばらくしてようやく口を開いた。

「お二人はいつ婚約を? 全く聞きませんでしたが」

 直次は私を抱き寄せ、笑みを浮かべた。

「二週間前です。彼女が事故に遭った時、私は気が気でなく、もう待てないと。退院後すぐに婚約しました」

「一ヶ月後に結婚します。千鶴の友人だというのなら、龍二さんもぜひいらしてください」

 龍二は答えず、その視線は私に注がれ、拳は知らず知らずのうちに固く握り締められていた。

 私は彼の怒りに気づかないふりをして、直次の体に寄り添い、甘い声で言った。

「ぜひお祝いにいらしてください。後日、招待状をお送りしますわ」

 彼の瞳に浮かぶ苦痛を見ても、私には報復の快感など微塵もなく、ただ解放感があるだけだった。

 私は直次の腕を組み、龍二に礼儀正しく頷いてみせる。

「他に御用がなければ、私たちはこれで失礼いたします」

最新チャプター

おすすめ 😍

「田舎者」と笑われた私、実は裏社会の女帝でした ~冷徹社長に正体がバレて溺愛される~

「田舎者」と笑われた私、実は裏社会の女帝でした ~冷徹社長に正体がバレて溺愛される~

100.8k 閲覧数 · 連載中 · 68拓海
ある名家から「不吉な忌み子」として捨てられ、世間からは「ただの田舎娘」と嘲笑される少女。
しかし、その正体は……
ファッション界を牽引するカリスマであり、香水界の伝説的な始祖。
さらには裏社会と政財界の命脈を握り、大物たちが跪く「影の支配者」だった!

長きにわたる雌伏の時を経て、彼女はついに帰還する。
奪われたすべてを取り戻し、自分を蔑んだ一族や世間を足元にひれ伏させるために。

一方、彼女の前に立ちはだかるのは、商業界の帝王と呼ばれる冷徹な男。
彼は知らなかった。裏でも表でも自分を脅かす最強の宿敵が、目の前で愛らしく微笑むこの少女だということを。

互いに正体を隠したまま、幾度もの交戦を重ねる二人。
そのスリリングな攻防の中で、二人は互いの秘密と脆さを共有し、やがて敵対関係は唯一無二の愛へと変わっていく。

そして危機が訪れた時、二人はついに仮面を脱ぎ捨て、並び立って頂点へと君臨する。

「君の『仮面』はすべて剥がした。次は、その心を裸にする番だ」
今さら返してと言われても、私はもう最強一家の娘です

今さら返してと言われても、私はもう最強一家の娘です

3.9k 閲覧数 · 連載中 · ^野田恵^
シェリーは一度、高貴なるライアン公爵家に裏切られ、惨めに命を落とした。

――だが目覚めると、5歳児の姿に返っていた。
今世こそ冷酷な貴族の手から逃れ、平穏に生きるのだ。そう誓った彼女は、孤児院の斡旋リストから、最も害のなさそうな「退屈で平凡な男」を新しい父親に指名した。

それが、人生最大の計算違いになるとも知らずに。

新しく父親になったサイラスは、裏社会の生ける伝説と呼ばれる【最強の殺し屋】。
母親は、引退した【超一流の暗殺者】。
兄たちは、国を揺るがす【狂気の天才科学者】と、歩く人間兵器な【最凶の武闘派】。
――ようこそ、世界で最も物騒な「普通の家族」へ。

かつての実家が消えたシェリーを必死に捜索する裏で、彼女は文字を習うより先に、銃の分解方法を叩き込まれていた。
彼女のために世界を火の海にできるほどの怪物の家族に囲まれ、かつての脆く儚い令嬢はもうどこにもいない。

彼女は家族に全肯定され、狂愛される「怪物ちゃん」。
かつて自分を捨てた傲慢な貴族どもを、今度はその牙で、完膚なきまでに噛み砕く番だ。
つわり発覚!? 禁欲上司に甘やかされすぎて、胸キュンが止まりません!

つわり発覚!? 禁欲上司に甘やかされすぎて、胸キュンが止まりません!

26.7k 閲覧数 · 連載中 · 佐伯綾子
結婚3周年の記念日、私は妊娠検査薬の書き込み(結果)をプレゼントとして夫に贈った。だけど、返ってきたのは1枚の写真――女の胸に添えられた、男の手。その指に光る結婚指輪が、すべてを物語っていた。

それは私の夫の手。――彼は、浮気をしていた。
別人として再会した元夫に、なぜか二度目の熱い誓いを迫られています

別人として再会した元夫に、なぜか二度目の熱い誓いを迫られています

5k 閲覧数 · 連載中 · ^野田恵^
顔も知らぬ夫との、跡継ぎを残すためだけの冷酷な「契約結婚」。
3年間、一度も交わることのなかった夫婦関係の中で、夏目千尋は亡き母の遺品を取り戻すため、ある危険な賭けに出る。

会員制クラブで泥酔した男、神崎雅臣。
目的のため、彼をベッドへと誘い、一夜の情熱を共にした。千尋にとっては、それきりの割り切った取引のはずだった。……その男が、実は「自分の夫」であるとも知らずに。

その後、彼女は偽名「アンナ」を名乗り、有能なビジネスパートナーとして彼の前に再び現れる。
大胆で挑発的、自分の思い通りにならない彼女に、雅臣はいつしか狂おしいほどに惹かれ、その心を囚われていく。目の前で自分を翻弄する不敵な美女が、まさか自宅に放置している「自分の妻」だとは夢にも思わずに。

冷え切った関係に終止符を打つべく、テーブルに置かれた離婚届。
しかし、予期せぬ「妊娠」が、二人の隠された関係をすべてひっくり返す。

始まりは、冷徹な利害の契約だった。
裏切りと欺瞞のゲームの果てに、先に愛の底へ堕ちたのは、一体どちらなのか――。
氷の君と太陽の私

氷の君と太陽の私

93k 閲覧数 · 完結 · 鍋部奈
裏切られ、後悔に溺れながら死んだ私は、恐れられ冷酷な婚約者が私を救おうと身を投げる姿を見た。

運命が私を引き戻した——薬を盛られた結婚初夜、彼の腕の中で生まれ変わったのだ。これは私の二度目のチャンス。

かつて逃げ出した男こそが私の運命。彼の狂おしい愛こそが、私の最強の武器。世界が恐れる男を受け入れ、彼の姫となろう。共に、私たちを破滅させた裏切り者どもを灰燼に帰すのだ。

しかし私の突然の献身は、彼に疑念を抱かせる。心を砕いてしまった男に愛を証明するには、どうすればいいのだろう……彼の最も暗い欲望が、私を永遠に縛り付けることだと知りながら。
自己犠牲はもうおしまい。虐げられた養女の反撃

自己犠牲はもうおしまい。虐げられた養女の反撃

10k 閲覧数 · 連載中 · 神楽
丸十五年もの間、涼宮寧音の人生は、ただ一つの残酷な目的のためにあった。
――病弱な義妹のための「生きる血袋」として仕えること。

健康も、才能も、尊厳も、そのすべてを捧げて尽くしてきた。しかし、必死に媚びへつらい、 縋り付いてきた家族から彼女に返されたのは、冷酷な裏切りと追放だった。

彼女の最初の人生は、あまりにも惨めな悲劇で幕を閉じる。
底知れぬ悔恨のなか、彼女は高層ビルから身を投げたのだった。

――だが、運命は彼女に二度目のチャンスを与えた。

二十三歳の誕生日の朝、目を覚ました寧音は誓う。もう二度と、理不尽に耐え忍ぶだけの犠牲者にはならない、と。

彼女は、毒親と義妹が巣喰う涼宮家を毅然と離脱。彼らが決して奪うことのできない、自分だけの唯一無二の武器――非凡なる「デザインの才能」を手に、新たな世界へと飛び込む。

その圧倒的な輝きは、政財界に絶対的な権力を誇る最高経営責任者、伏見盛重の目を引いた。彼は同情という名の施しではなく、対等なビジネスパートナーとして、彼女に救いの手を差し伸べる。

いまや寧音は、ただ生き延びるために足掻く哀れな女ではない。

自らの人生を狂わせた「家族」を冷徹に、一歩ずつ破滅へと追い詰めながら、彼女は愛する実母の死の真相へと迫っていく。
社長、突然の三つ子ができました!

社長、突然の三つ子ができました!

259.5k 閲覧数 · 連載中 · キノコ屋
五年前、私は継姉に薬を盛られた。学費に迫られ、私は全てを飲み込んだ。彼の熱い息が耳元に触れ、荒い指先が腿を撫でるたび、震えるような快感が走った。

あの忌まわしい夜から逃げるように去った私だったが、ほどなくして三つ子を妊娠していることに気付く。

五年後、医療界の新星として戻ってきた私は、継母、継姉、実の父へ全ての仕返しを誓う。

その時、彼が現れた。三人の小さな自分そっくりの顔をじっと見つめながら、優しく「パパ」と呼ぶよう子供たちを誘う彼。

ふとシャツのボタンを外し、悪戯っぽく笑って言った――

「どうだい、あの夜の熱をもう一度味わってみないか?」
転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

318.7k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
婚約者が浮気していたなんて、しかもその相手が私の実の妹だったなんて!
婚約者にも妹にも裏切られた私。
さらに悲惨なことに、二人は私の手足を切り落とし、舌を抜き、目の前で体を重ね、そして私を残酷に殺したのです!
骨の髄まで憎い...
しかし幸いなことに、運命の糸が絡み合い、私は蘇ったのです!
二度目の人生、今度は自分のために生き、芸能界の女王になってみせる!
復讐を果たす!
かつて私をいじめ、傷つけた者たちには、十倍の報いを受けさせてやる...
跡継ぎ問題に悩む御曹司様、私がお世継ぎを産んで差し上げます~十代続いた一人っ子家系に、まさかの四つ子が大誕生!~

跡継ぎ問題に悩む御曹司様、私がお世継ぎを産んで差し上げます~十代続いた一人っ子家系に、まさかの四つ子が大誕生!~

381.7k 閲覧数 · 連載中 · 蜜柑
六年前、藤堂光瑠は身覚えのない一夜を過ごした。夫の薄井宴は「貞操観念が足りない」と激怒し、離婚届を突きつけて家から追い出した。
それから六年後——光瑠が子どもたちを連れて帰ってきた。その中に、幼い頃の自分にそっくりの少年の顔を見た瞬間、宴はすべてを悟る。あの夜の“よこしまな男”は、まさに自分自身だったのだ!
後悔と狂喜に押し流され、クールだった社長の仮面は剥がれ落ちた。今や彼は妻の元へ戻るため、ストーカーのようにまとわりつき、「今夜こそは……」とベッドの隙間をうかがう毎日。
しかし、彼女が他人と再婚すると知った時、宴の我慢は限界を超えた。式場に殴り込み、ガシャーン!と宴の席をめちゃくちゃに破壊し、宴の手を握りしめて歯ぎしりしながら咆哮する。「おい、俺という夫が、まだ生きているっていうのに……!」
周りの人々は仰天、「ええっ?!あの薄井さんが!?」
地獄の淵で誓った「死」の宣告――裏切り者たちへのレクイエム

地獄の淵で誓った「死」の宣告――裏切り者たちへのレクイエム

3.4k 閲覧数 · 連載中 · 南宮
夫は私を病院へ放り込み、愛人と笑い、娘を飢えさせた。
雪の中で凍え死にかけた私を救ったのは、復讐の代行者。
「選べ。彼らを許すか、地獄へ送るか」 私の答えは決まっている。
膝をついて泣き言を漏らす夫を見下ろしながら、私は冷たく微笑む。
罪を償う時間よ。地獄の火よりも熱い、復讐の始まりを教えるわ。
殺されたので戻りましたが、元夫の宿敵に執着されています

殺されたので戻りましたが、元夫の宿敵に執着されています

16.2k 閲覧数 · 連載中 · しらとり ちおり
前世で自分を殺した夫から逃れるため、必死の思いで飛び込んだ部屋。
そこにいたのは、あいつの最大最凶の「宿敵」だった――。

上半身裸の彼に壁へと押し付けられた私は、耳元でその低く甘い声を聴く。
「他の女たち?……どいつもこいつも、もっと優しくしてくれって泣いて縋ってくるがな」

ただの一時しのぎのはずだった。なのにその夜を境に、この危険な男は私に執着し、決して離そうとしない。

前世の夫への復讐を誓い、罠を仕掛けた「復讐劇」の舞台が間近に迫る中。
不敵に微笑む彼は、本当に式場をぶち壊しに現れるつもりなのだろうか――?
不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

254.7k 閲覧数 · 連載中 · 七海
人生最良の日になるはずだった、結婚式当日。
新郎の車から出てきたのは、見知らぬ女の派手なレースの下着だった。

しかも、その布切れにはまだ。生々しい情事の痕跡が残されていた。

吐き気がするほどの裏切り。
幸せの絶頂から地獄へと突き落とされた私。

けれど、泣き寝入りなんてしてやらない。
私はその場でウェディングドレスの裾を翻し、決意した。

「こんな汚らわしい男は捨ててやる」

私が選んだ次の相手は、彼など足元にも及ばない世界的な億万長者で?