「記憶の破片」

沈黙が長く続いた。エアコンの低音が、やけにはっきり聞こえた。

「……わかった」

祈の声は小さかった。

「約束する」

朔の右手が膝の上で一瞬、握りしめられた。黒い手袋をはめた指が拳になる。皮革の表面から、指の関節の輪郭が浮き上がった。

承諾した。

あっさりと。

一秒の迷いも見せずに。考えさせてほしいとも言わずに。

胸の中で何かが激しく波打った。それを押さえ込んで、表情を動かさなかった。

「それでいい」

祈はそれ以上何も言わなかった。手を伸ばしてドアを開け、横浜の夕暮れの人波の中に消えた。

振り返らなかった。

夜明け前。

カーテンの隙間から、灰色の光がわずかに差し込んでい...

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