第六章 囮(おとり)

電話の向こうが、突然死んだように静まり返った。

一条様の呼吸音だけが、話筒の中で増幅されていた。まるで喉を締め上げられているかのように。

やがて、向こうから声がした。

「……今、何と言った。」

一条様の声は低く、かすかに信じられないという響きを帯びていた。

「離婚です。」紗奈は繰り返した。「あなたと離婚したい。」

「ふざけるな。」

語調に、踏まれた尻尾のような冷たさがにじんだ。

「離婚がそんなに簡単だと思っているのか。お前にその資格があるとでも。」

少し間を置いて、一条様の声はさらに冷えた。

「一条家を出て、お前が二十代の白石紗奈に戻れるとでも思っているのか。」

紗奈はこ...

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