第3章
「月、朝市に行ってみないか」朝食の席で、巧が提案した。
「最高のアイデアだ!」裕真が私の肩をぽんと叩いた。「美玲が昨日、地元の文化を体験したいって言ってたところなんだ」
私の向かいに座った美玲は、彼女らしい明るい笑顔を浮かべていた。「うん、面白い手工芸品とか地元の食べ物がたくさんあるって聞いたわ。月なら、どこのお店が一番いいか知ってるでしょ?」
『また始まった』美玲に青峰市について訊かれると、いつも決まって、この街の「正しい」楽しみ方についてのお説教になってしまう。
「私、あんまり行かないから」正直にそう言った。
「月はいつも人混みを避けるものね」美玲は少し咎めるような口調で言った。「でも、それじゃだめよ。人生、外に出ていろんなことを経験しなくちゃ」
私が人混みを避けるのは、社交不安があるからではない。そういう状況で、いつ不安が顔を出すか分からないからだ。
「これは絶好の機会だと思うわ」美玲はテーブルの上で手を組むと、まるでカウンセラーのような目つきで私を見た。「月、いつまでも図書館に隠れていちゃだめ。私はここに来た瞬間から青峰市の活気に夢中になったの。あなたも人混みのエネルギーを楽しむことを覚えるべきよ」
「美玲の言う通りだな」裕真が頷いた。
言い訳なんかじゃなく、自分ではどうしようもない純粋な恐怖なのだと説明したかった。でも、期待に満ちた四人分の視線を受けて、私は結局、頷くしかなかった。
「……わかった」
巧の車の後部座席に座り、私は自分を落ち着かせようと努めた。車窓の景色はめまぐるしく過ぎ去っていくのに、私の心臓の鼓動はどんどん速くなっていく。
「月、緊張してるみたいね」美玲が座席でこちらに体を向けた。その口調には、どこか見下すような、それでいて心配するような響きがあった。「リラックスしなさいよ、ただの市場じゃない」
「そうだよ」助手席から淳一が振り返った。「何かパフォーマンスするわけでもないんだから。ただぶらぶら歩いて、物を見て、何か買ったりすればいいだけだろ」
「月は、ちょっと人見知りなのかもね」美玲は私がそこにいないかのように、思案顔で言った。昔、そういう友達がいたの。練習で少しずつ慣れて良くなったわよ」
「練習?」裕真が訊き返した。
「無理やりにでも人混みに行って、少しずつ慣らしていくの。避けてると、恐怖心は悪化するだけだから」
私は美玲を見た。彼女の言葉が、説明のつかない怒りを私の中に掻き立てる。知り合ってまだ数日しか経っていないのに、もう私を診断しているつもりなのだろうか。
「私、人見知りじゃない」思ったよりも鋭い声が出た。
「もちろん、病気だなんて言ってないわ」美玲は無邪気に両手を上げた。「ただ、もっと人と交流する練習が必要だって言ってるの。それは誰にとってもいいことでしょう?」
「一理あるな」巧がバックミラー越しに私を見た。「月、お前は本当にもっと外に出るべきだ。いつまでも自分の殻に閉じこもってちゃだめだぞ」
私は唇を噛んで、何も答えなかった。車は朝市の駐車場に入り、窓の外にうごめく人の群れが見えた。心臓が、制御不能なほど速く打ち始めた。
朝市は、記憶にあったよりもさらに混雑していた。
音楽、店主の呼び声、人々の話し声がすべて混ざり合い、息が詰まるような音の壁になっていた。私は三人の後ろについていきながら、必死に呼吸を整えようとした。
「見てこれ!」美玲が興奮した様子で手作りのアクセサリーの屋台を指さした。「このピアス、すごく綺麗! 月、この青いの、どう思う?」
無理やりそちらに目をやった。ピアスは確かに綺麗だったけれど、今の私の意識は、周りで押し合う人々によって完全に占められていた。誰かに腕をぶつけられ、危うくバランスを崩しそうになる。
「いい、と思う……」私の声はどこか遠くに聞こえた。
「大丈夫か?」裕真が異変に気づいた。「顔、真っ青だぞ」
「ちょっと、気分が悪い」正直に言った。「もう帰れないかな?」
三人は顔を見合わせた――私がよく知っている、彼らの忍耐が尽きかけていることを警告する、あの眼差しだ。
「またかよ」淳一がため息をついた。「月、お前、人混みがあるたびに逃げるのはやめろよ」
「逃げてるんじゃない」私は弱々しく抗議した。
「美玲の言う通りだ。恐怖に立ち向かわないと成長できないぞ」巧の口調には、有無を言わせぬ決意がこもっていた。「お前の精神的な問題のために、この予定を中止するわけにはいかない」
『精神的な問題』。その言葉は、平手打ちのように私の顔を叩いた。
「美玲を見てみろよ」裕真が、楽しそうに見て回る彼女を指さした。「あんなにこの活気ある雰囲気を楽しんでるだろ? お前も彼女の姿勢を見習うべきだ」
自分の名前が出たのを聞いて、美玲が振り返った。「月、深呼吸して。周りの雰囲気に抵抗するんじゃなくて、楽しんでみるのよ。時には無理やりでも、自分の快適な場所から抜け出さなきゃ」
私の手は震え始めた。周りの音はさらに大きくなり、人混みはより密度を増していく。息もろくにできないような気がした。
「本当に、もう無理」声がかすれた。「お願い、少し車で休ませて」
巧は、苛立ちで顎をこわばらせながら、弟たちに視線を送った。
「わかった」巧は車のキーを私に手渡した。「車で休んでろ」
車の中に座ると、ようやく普通に呼吸ができた。しかし、窓の外を見て、私の心を打ち砕く光景が目に飛び込んできた。
私がいないと、彼らはずっとリラックスして、屈託がないように見えた。裕真が何かの真似をして淳一を大笑いさせ、巧は美玲と並んで歩き、彼女が指さす様々な屋台に頷きながら微笑んでいた。彼らは……幸せそうだった。心から、幸せそうに。
『私はずっと、彼らのお荷物だったんだ。私がいなければ、彼らはもっと幸せなんだ』
四人の姿が人混みの中に消えていくのを見ながら、私はふと、あることを理解した。私は彼らの人生に、なくてはならない存在ではなかったのだ。
一時間ほど経って、美玲が一人で車に戻ってきた。
「気分は良くなった?」彼女は私の隣に座り、まるで子供をあやすような優しい声で言った。
「うん」私は彼女の方を見なかった。
「月、ちょっと話があるの」彼女は私の方に向き直り、真剣な表情になった。「さっきあなたが不快に感じていたのはわかるわ。でも、考えたことある? あの三人はあんなに社交的で活発なのに、あなたがいつもそうだと、彼らが窮屈に感じてしまうって」
私は勢いよく顔を上げて彼女を見た。「どういう意味?」
「責めてるわけじゃないのよ」彼女は慌てたように両手を上げた。「ただ、思うんだけど……あなたたちは友達でしょう? 友達ならお互いに合わせるべきだけど、その配慮は相互的であるべきじゃないかしら」
私の唇が震え始めた。
「こんなふうになりたいわけじゃないの、ただ……」
「なりたいわけじゃないのはわかってるわ」美玲は私の言葉を遮った。「でも、意図と結果は別物よ。考えてみて。あなたの気持ちに合わせるために、彼らはこれまでどれだけ面白い活動を諦めてきたと思う? 彼らは文句を言わないけど、それは気にしていないってことじゃないわ」
彼女の言葉が、短剣のように私の心に突き刺さった。
「月、あなたは本当に、少し自分を変える努力をすべきよ」彼女の声はさらに柔らかくなったが、一言一言がハンマーのように打ち付けられた。「彼らのためにも、そして、あなたたちの友情のためにも」
「そこを、私が手伝ってあげたいの」美玲は微笑んだが、その笑顔は私をぞっとさせた。「彼らはあんなに素晴らしい人たちなんだから、彼らのペースについていける友達を持つ資格があると思わない?」
私は彼女を見た。この、たった数日であの三人の私に対する態度を劇的に変えてしまった少女を。彼女は、私が持っていないすべてを持っていた――自信、生命力、適応力。彼女こそが、彼らが望むタイプの友達なのだ。
そして私は、彼らが習慣でそばに置いているだけの、お荷物に過ぎない。
三人が車に戻ってきたときも、彼らの笑い声は続いていた。私は後部座席に座り、彼らが見てきた面白い屋台について語り合い、私がそこにいなかった幸せな瞬間を分かち合うのを聞いていた。
私は疑問に思い始めていた――この友情は、私がこんなにも卑屈にしがみつく価値がまだあるのだろうか? あるいは、問うべきはこうだろうか。この友情は、彼らにとってまだ何か価値があるのだろうか、と。
