第1章 彼女を信じない?
バーの大型スクリーンでは、卑猥な映像が流れていた。
妊娠八か月の美玲が、大きなベッドに仰向けで横たわっている。脚は大きく開かれ、腹は山のようにせり上がっていた。
股間は乱暴に弄ばれたように赤く腫れ、ひどく痛々しい。男の黒ずんだものがコンドームも付けず、容赦なく出入りを繰り返す。
「……あっ、もっと奥……赤ちゃんに当たっちゃう……」
画面の美玲は夢中になったような表情で舌まで突き出し、喘ぎ声を途切れさせない。
店内には数十人の男がいた。誰もが釘付けで見つめ、下半身を隠しもしない者までいる。
その中央、ソファの前にひとりの女が膝をついていた。美玲は腹を抱え、涙で目を赤くして叫ぶ。
「岳斗、お願い……止めて……! これ、AIの顔だけ差し替えた動画なの! 偽物なの!」
だが両手は腹を守るので精一杯で、耳を塞ぐこともできない。映像の中では、彼女とまったく同じ声が淫らに響き続ける。なのに美玲は、そんなことを――一度だってしたことがない。
前科なんてない。遊び歩くような女でもない。それなのに、なぜ岳斗は信じてくれないのか。
「偽物? どこのエロサイトにも転がってる。1回500円で落とせるんだ。……全体で何回ダウンロードされたと思う?」
殴られ、床に転がった美玲は、次の瞬間には襟首を掴まれて引きずり起こされる。
「売るのが好きなんだろ? 叶えてやるよ。今日はこのバーにいる連中、全員お前の客だ。飽きるまで売らせてやる」
理解する間もなく、白いワンピースがばりばりと裂かれ、布切れになって散った。
美玲は必死に身体を隠す。
「違う……本当に違う……! 私、男の人はあなただけ……岳斗、お願い……」
返ってきたのは、容赦のない平手打ちだった。
阿部岳斗が立ち上がる。一九〇に届きそうな長身。小動物でも持ち上げるみたいに、美玲の喉元を掴み、そのまま吊り上げた。
「……吐き気がする。そんな台詞、口にするな」
白い下着が乱暴に引き剥がされ、妊娠で張った胸が露わになる。
岳斗の目は、ゴミでも見るように冷え切っていた。彼は美玲をソファ前のテーブルに放り投げ、脚をこじ開ける。下着は横へと押しやられた。
美玲は取り乱しかけて、身をよじりながら叫ぶ。
「阿部岳斗! やめて! 放して!」
八年も愛した男が、どうしてこんなことをするのか。自分は人間ですらないのか。
「みんなに見せてやれ」
岳斗の瞳は氷のように冷たい。
「お前のそこが、動画と――同じかどうか」
「AIだの偽物だのって? 春菜がお前を陥れるとでも?」
岩崎春菜――。
その名を聞いた瞬間、美玲の力が抜けた。
目の奥に落ちるのは、死んだような絶望。
岳斗の幼馴染として一緒に育った岩崎春菜。彼が彼女を信じないはずがない。
「遊びたい奴、並べ」
頭上から、凍てついた嘲笑が降る。
「1回1000円。二回分で三回。サービスしてやる」
「やだ――!」
こんな人数、耐えられるわけがない。死んでしまう。しかも、腹には子供がいるのに。
美玲は歯を食いしばり、必死に暴れた。
「阿部岳斗……お腹の子、あなたの子なの……! こんなこと、できるわけない……!」
だが岳斗は信じない。
「俺の子? お前、何人に抱かれた? 自分でも父親が誰か分からねえんじゃないのか」
「違う……」美玲は泣きながら首を振る。絶望で声が掠れていく。「ほんとに……誰とも……」
抵抗は、無意味だった。
少しでも身を起こして逃げようとすれば、岳斗に乱暴に押し戻される。テーブルの周りに男たちが群がり、美玲を見下ろす目は飢えた獣そのものだった。
「兄貴、カード? 現金?」
四肢は六、七人が同時に押さえつける。胸や下腹部へ手が伸び、腹を叩く者までいる。容赦など欠片もない。
「やめて……! 子供が……!」
美玲は壊れたように叫び、恥という感覚さえ忘れていた。ただ腹の中の命を守りたい、それだけ。
「……やめろ。全員、下がれ」
突然、岳斗が怒鳴りつけた。
美玲の身体に指をねじ込もうとしていた男が、肩を掴まれ、背負い投げで人混みの外へ叩き落とされる。
「誰が触っていいと言った。消えろ」
獣じみた気迫が走り、テーブルの周囲は一瞬で空いた。男たちは三メートルほど後ずさる、顔面が青ざめている。
岳斗は美玲の足首を掴み、引き寄せた。
「男は俺だけだって? ……なら、俺がやる」
ベルトが外され、熱を帯びた気配がじわじわと迫る。
「岳斗……やめて……子供が、危ない……」
美玲は泣きながら懇願した。身体が砕けそうで、もう逃げる力もない。何を言っても無駄だと分かっていながら、最後の力で罵る。
「……あんた、人間じゃない……阿部岳斗……!」
怒りに火がついた男は、さらに残酷になった。
痛みが走り、美玲の下半身に滲むものがあった。悲鳴が漏れる。もがけばもがくほど、岳斗は力を増す。脚を無理やり開かれ、裂けるような恐怖で視界が白くなる。
腹の中の子供まで不安げに蹴り、まるで一緒に抵抗しているみたいだった。
「見られるのが好きなんだろ」
岳斗は歯を食いしばったまま、スーツの襟元すら乱さない。ベルトだけを外し、態度だけが異様に整っている。
「動画、撮れ。好きに上げろ。再生が1回増えるたび、1万払ってやる」
「美玲――お前がどれだけ淫らか、全員に見せてやれ」
美玲の理性が、ぷつりと切れた。
「阿部岳斗……地獄に落ちろ……!」
「お願い……お願いだから、許して……! 私、死ぬ……死ぬから……!」
罵倒と懇願が入り混じり、言葉は崩れていく。それでも岳斗の表情は動かない。
「子供が俺の子だって言うなら、羊水検査でもしろ。DNA鑑定でも何でもやれ」
そのとき、岳斗の動きが止まった。
美玲は、ようやく解放されるのだと思い、息を吸い込んで言葉を重ねる。
「今すぐやって……! 生まれてからじゃなくても……私――」
だが、岳斗は冷たく見下ろした。瞳は毒で磨いたみたいに暗い。
「……俺が、やってないとでも思ったか?」
その瞬間、岳斗のスマホが鳴った。
「……もしもし、春菜」
「DNAの結果? 言え」
受話器の向こうから女の声がするたび、岳斗の周囲の空気が沈んでいく。整った顔が、怒りで少しずつ歪んでいった。
「美玲」
「結果が出た。腹の子は――俺と一切、関係ない」
「……言い訳は、まだあるか?」
