第53章 地獄へ落ちる

黒塗りのSUVが、狂った獣のように深夜の道路を疾走していた。タイヤが路面を削るような甲高い音が、夜気を引き裂く。

病院の廊下は、目に痛いほど白かった。

阿部岳斗は全身を血に染めたまま、救命救急室の前に立っていた。

視線の先にあるのは、自分の両手にこびりついた血。

――美玲の血だ。

女の喉には、気管を断ちかねないほど深い裂傷が走っていた。あのとき噴き出した生温かい血が、彼の身体をまともに浴びせてきたのだ。

バン、と救命救急室の扉が開く。

主治医が汗だくのまま飛び出してきた。マスクを外す暇さえない。

「阿部さん、美玲さんの頸動脈はどうにか止血できました。ですが、失血量は2,000...

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