第35章

「久遠成安?」

母親のそのひと言で、相沢衣奈の顔にかかっていた翳りはさっと晴れた。

そうだ。どうしてその人のことを思いつかなかったのだろう。

「お母さん、わかった」

通話を切ると、相沢衣奈の気分は一気に軽くなった。スマホを手に、すぐさま久遠成安へメッセージを送る。

「君が相沢衣奈?」

不意に、すぐそばで聞き慣れない男の声がした。

相沢衣奈が振り向くと、男はどこか面白がるような目でこちらを見ていた。

じろじろ見られ、相沢衣奈はあからさまに顔をしかめる。

「私を知ってるの?」

「もちろん。相沢愛音の妹だろ?」

男は軽薄そうな口ぶりでそう言った。

それ以上話す気にもなれず、...

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