軍師はまた厄介事を起こす

元盛十六年、蓝熙国は一夜にして滅亡した。幽霊のように現れた一軍が夜襲を仕掛け、月歌を襲撃し、幾重もの防衛線を突破して、最後には宮殿を血で染め上げた。蓝月国の王族は皆殺しにされ、臣下も一人として生き残ることはなかった。民衆は散り散りに逃げ出し、飢え死にする者が道端に溢れた。わずかな者だけが逃れ出たが、今もなおその行方は知れない。

巫咸国の国主と月灵国の国主は蓝熙国の領土を分割し、それぞれが半分ずつを手に入れた。これにより、三つ巴の均衡は二国間の牽制と対立の構図へと変わった。両国は三年もの間、平穏な関係を保ってきた。

……

半年前、巫咸国に不穏な動きが見られるようになった。国境を無視し、次々と兵を送って辺境を騒がせ、周辺の小さな町で略奪と殺戮を繰り返した。数名の官吏が連名で上奏し、国主に鎮圧のための出兵を請願した。

言灵国の国主は激怒し、すぐさま大将軍の鍾毓琰に命じて軍を率いさせ、国境へと向かわせた。

……

「阿楠！」

南蘭はゆっくりと目を開けた。ぼんやりとした視界と混乱した頭で、現実か夢かの区別がつかなかった。目をこすりながら、周囲の状況を確認しようとした。

目の前に広がるのは生い茂った森。陰鬱な天気のせいで、方角さえ判別しがたい。

南蘭は何とか立ち上がり、よろよろと前に進み始めた。頭の中はぼんやりとして、何も思い出せない。歩きながら人差し指でこめかみをさすり、少しでも意識をはっきりさせようとした。

南蘭はゆっくりと先ほどの出来事を思い出そうとした。社長のオフィスに行って、それから気分が悪くなって、そして……

気がついたらここにいた？

はっきりとした意識を取り戻した南蘭は、周囲の森を見渡し、見知らぬ場所への恐怖を感じた。ここがどこなのかわからない。記憶の中でこんな場所に来た覚えはない。一体どうやってここに来たのだろう？

南蘭はため息をついた。とにかく、まずは出口を探そう。

南蘭は森の中をかなり歩き回ったが、出口は見つからなかった。ポケットに手を入れてみたが、何も入っていない。驚いて自分の身体を見下ろした。

なんだこれ？！

南蘭は自分の身に着けている粗末な麻の古風な衣服を見て、現実感を失った。

これは社長の悪趣味なのか、それとも何か別のことなのか？

南蘭の頭はまた混乱し始め、ぼろきれのような自分の服をつかみながら、何と言っていいか分からなかった。

南蘭が人生について考えていたその時、遠くから急な馬蹄の音が聞こえてきた。地面がわずかに震え、南蘭はようやく我に返った。

音の方向を見ると、遠くで赤い服を着た男が馬を走らせてこちらに向かってきていた。その後ろには大勢の人々が続き、時折矢を放っている。追われているようだ。

どこかの撮影隊がロケをしているのか？

南蘭は辺りを見回したが、カメラもスタッフも見当たらない。不思議に思っているうちに、その一団は南蘭の前まで来ていた。彼は急いで木の陰に隠れ、こっそりと様子を窺った。

一団は先頭の赤い服の男を追いかけ、放たれた矢は毎回彼の傍をかすめるが、一度も当たらない。男は一直線に前方へと馬を走らせていた。

南蘭は木の陰から、赤い服の男が向かっている方向を見て、突然あることに気づいた……

待て、あそこは、崖だぞ！！！

…………

追っ手が矢筒から矢を取り出している隙に、赤い服の男は服の中から何かを取り出し、それを使おうとしたところで、一本の矢が彼の腕をかすめ、傷跡を残した。

手に持っていた花火の信号弾が地面に落ち、赤い服の男は血に染まった腕を一瞥し、「ちっ」と舌打ちをしてそのまま馬を走らせ続けた。まるで目の前の崖が見えていないかのように。

後ろから追いかけていた者たちが突然立ち止まり、先頭の男がゆっくりと弓を持ち上げ、背中から矢を取り出して弦に番え、前方の赤い服の男に狙いを定めた。

「ぷすっ」

鋭い物体が肉を貫く音。痛みに駆られて、赤い服の男は手綱を握る手をわずかに緩めた。彼が反応する間もなく、もう一本の矢が馬に命中した。

馬は驚いて暴れだし、男は馬から振り落とされ、何度も転がって崖の縁まで滑っていった。

先頭の男は十分だと判断し、馬から降りてゆっくりと赤い服の男の前に歩み寄り、その惨めな姿を見下ろした後、冷笑しながら彼を崖から蹴り落とした。

「うわっ！」木の陰に隠れていた南蘭は男の行動に仰天した。今時の役者はここまで本気なのか？スタントマンやワイヤーも使わないのか？

待て、ワイヤー？

うわ、マジで、ワイヤーなんてないじゃないか！

南蘭は衝撃を受けた。撮影のために命を懸けているのか？あそこは紛れもない崖だぞ！底も見えないほど深い！

男を崖から蹴り落とした後、彼らはそれ以上留まることなく、馬に乗って立ち去った。

南蘭は急いで崖の端に駆け寄った。なんてこった、本当に落ちたのか？これは撮影じゃなくて命がけの行為じゃないのか？

南蘭は動揺し、こんな状況は初めてで、携帯電話も持っていなかった。

ほぼゼロに等しい可能性にかけて、試しに崖の下に向かって叫んでみた。「あの、誰かいますか？」

…………

返事はなかった。南蘭はため息をついて立ち上がろうとした。突然、かすかな声が聞こえた。「いる……」

南蘭は急いで崖の端を覗き込んだが、何も見えなかった。その声は続けた。「ここだ。」

南蘭は声の方向に頭を伸ばし、赤い服の男を見つけた。彼は崖に突き刺さった剣にしがみついていたが、もう限界が近そうだった。

「助けてくれ……」男は弱々しく懇願した。

南蘭はすぐに手を伸ばして彼をつかもうとしたが、手が短すぎて届かなかった。南蘭は焦って周囲を見回し、使えそうな道具を探した。一本の木の傍に行くと、根元から斜めに伸びた太くて長い枝を見つけた。両手でその枝をつかみ、力いっぱい引っ張って抜き取った。

南蘭は手に持って柔軟性を確かめ、大丈夫そうだと判断すると、自分の服から布を一枚破り、枝に巻きつけた後、崖の端に走り、枝を下に伸ばした。

「届く、届きますか？」南蘭は枝を精一杯下に伸ばしながら尋ねた。

鍾毓琰は頭上の枝を見て、かすかに応じた。「届く……」そして怪我をした右手を上げて枝をつかみ、左手で剣を抜いた。

南蘭は枝に重みを感じると、引き上げ始めた。鍾毓琰は自分の剣を使って少しずつ上に登り、枝にかかる重さを軽減しようとした。

全過程は意外にも平穏で、南蘭は途中で枝が折れて男が落ちて死んでしまうのではないかと心配していた。幸いなことに、そうはならなかった。

南蘭は自分の隣で一緒に地面に横たわっている男を見て、微笑んだ。これが人助けの気持ちか。人を救った感覚は本当に気持ちいい！

鍾毓琰は救出された後、大きく息を吐いた。信号を出せなかったため、今日は崖底で命を落とすかと思ったが、思いがけず彼に救われた。

鍾毓琰は隣のぼろぼろの服を着た人物を見た。自分を救ってくれたことに感謝しつつも、警戒心は解けなかった。

「お前は何者だ？」

南蘭は息を整えてから、初めて目の前の男をはっきりと見た。

彼は半分だけ金の透かし彫りの仮面をつけ、露出した半分の顔は凛々しくも美しかった。切れ長の目には警戒心が満ちていたが、それがかえって妖艶で危険な魅力を放っていた。

南蘭はごくりと唾を飲み込み、自分が書いた『将軍伝』の主人公、蘭陵王のように美しく凛々しい鍾毓琰を思い出した。

もしかして…社長が彼を呼んだのは、この『将軍伝』を撮影するためなのか？なぜ自分もその中に出演させるのだろう？

しかも…鍾毓琰を救うなんて？このシチュエーション、どこかで見たことがある！

「聞いているのか、名前は何だ？」南蘭がなかなか答えないのを見て、鍾毓琰は忍耐を失い、剣を抜いて南蘭の首に突きつけた。

「わ、わ、わたしは…あの…安楠です！」南蘭は思い切って敵国のスパイの名前を名乗った。「国境の小さな町の者ですが、町は巫咸国の軍隊に踏み荒らされ、私だけが逃げ出しました。」

「ほう？」鍾毓琰は片眉を上げた。「どうして嘘ではないと分かるのだ？」

南蘭は鍾毓琰から発せられる威圧感に息苦しくなりそうだったが、社長の指示に従うしかなく、話を続けた。「わ、私は軍略を知っています。鍾大将軍の軍がこの近くにいると聞き、軍に加わって敵を討ち、家族の仇を討とうと思ったのです！」

鍾毓琰は彼の小柄な体格を見て、嘲笑した。「お前が？戦場で敵を討つだと？武器さえ持ち上げられないだろう！」

南蘭は心の中で悪態をついた。演技に入り込みすぎだろう、人格攻撃までするとは。

「わ、私は軍師になれます。」彼は少し弱々しい右手を上げて、小声で言った。

鍾毓琰は剣を収めたが、それは警戒を解いたわけではなかった。ただ…敵は自分の目の前にいてこそ監視しやすい。