第106章

彼女の拒絶は、あまりに潔かった。取りつく島もない。

佐野鶴の顔に貼りついていた笑みが、ようやく、ゆっくりと消えていく。

彼は彼女を見た。いつも笑っているはずの桃花眼には、いまは微塵の温度もない。底なしの暗がりだけが沈んでいた。

それでも彼は、数秒――ただ黙って見つめたあと、意味の読めない笑みを唇に浮かべる。

「そう……それは残念だね」

声は軽い。けれど、皮膚にまとわりつくような、湿った気配が混じっていた。

「でもさ、古川朱那。言い切りすぎないほうがいい。……そのうち気が変わるかもしれないだろ?」

そう言い捨てると、佐野鶴はもう古川朱那を見なかった。踵を返し、そのまま真っすぐ外へ...

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