第115章

佐野一玄は薄い唇をきゅっと結び、言いかけて――結局、黙った。

古川朱那は何かを察して、慌てて視線を落とす。もう、それ以上は訊かない。

自分と彼は、結局、住む世界が違う。

互いのためにも、適度な距離を保つほうがいい。

翌朝早く。

古川朱那が暁株式会社のビルに足を踏み入れた途端、受付が青ざめた顔で駆け寄ってきて、声を潜めた。

「古川社長、古川家の当主とお兄さま方が応接室でお待ちです。至急お話があるそうで……」

朱那の足が止まる。

――来るのが早い。

「分かった」

それだけ言って、朱那はまっすぐ応接室へ向かった。

扉を開けた瞬間、目に飛び込んできた光景に、朱那は眉をわずかに上...

ログインして続きを読む