第143章

「じゃあ行こう。先に店、押さえてある」

佐野一玄は気づかれないほど小さく息を吐いた。氷みたいに冷えた瞳に、わずかな温度が差す。

――行くか。たかが一回、食事するだけ。

古川朱那は自分に言い訳を用意する。友だち同士だって、ふつうに一緒にご飯くらい食べる。

距離を取れば取るほど、かえって変に意識してしまうのかもしれない。だったら、いっそ自然体でいい。

佐野一玄が選んだのは、旧市街の路地奥にある隠れ家めいた私房菜の店だった。人通りも少なく、静けさが沁みるような場所。

通された個室には、彼女と彼だけ。

料理は丁寧で美しかった。なのに、部屋の空気はどこか重く、動かない。

朱那は食欲がな...

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