第163章

しばらくのあいだ、古川朱那の心臓は暴れたままだった。けれど長い時間をかけて、ようやく鼓動が落ち着いてくる。

そのとき、ふくが部屋の中から飛び出してきて、「すりっ」と勢いよく彼女の胸にのぼり、抱っこをせがんだ。

古川朱那は子猫の背を撫でながら、どうしても脳裏に浮かんでしまう光景があった。佐野一玄がふくの爪を切ってくれたときの、あの柔らかくて、慎重で、気配りの行き届いた手つき。

正直に言えば――以前の彼女なら、殴られたって信じなかっただろう。

外では圧が強く、決断も速く、容赦なく場を制する「宋の社長」が、私生活で子猫の爪切りをあんなに手際よくこなすなんて。

しかも猫の扱いまで上手い。

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