第57章

彼女は自嘲気味に口の端を吊り上げ、横へ身をずらそうとした。けれど、先に動いたのは彼のほうだった。

彼の影がすっと離れ、淡い月光がこぼれ落ちる。銀色の薄衣を羽織らされたみたいで――少し、寒い。

胸の奥で渦巻く思いを押し殺し、朱那は自分に言い聞かせた。背後にはもう、誰もいない。許されない期待をほんの一欠片でも抱けば、また底なしへ落ちるだけだ。

「兄さん、何か?」

淡々と言う。声は、きっちり冷えていた。

古川礼和はすぐには答えない。視線だけが、しばし彼女の顔に留まった。

月明かりの下の朱那は、ひやりと澄んでいる。静けさの中に、言いようのない美しさがあった。以前より背が伸び、少し痩せて―...

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