第73章

「コーヒー?!」

古川朱那はその場で固まった。

佐野一玄ほどの男が、どうして急に自分をコーヒーに誘うのか。

――あのとき助けた礼、ということだろうか。

たぶん、そうだ。

あれこれ考えた末、古川朱那はうなずいた。

二人は近くのカフェに入り、席に着く。朱那はブラックを頼んだ。

……気のせいだろうか。今日の佐野一玄の視線は、どこかおかしい。

目が合うたび、漆黒の瞳の奥に、重たい何かが沈んでいる。朱那には読めない感情が、そこにある気がした。

(恩を盾に何か要求されるのを警戒してる……?)

「――あの日は、助かった」

ふいに、佐野一玄が低く言った。朱那の顔に落ちた視線は、夕映えみ...

ログインして続きを読む