第81章

佐野一玄はそれ以上追及せず、彼女の手にある鍵と売買契約書にさらりと視線を走らせるだけで、すべてを察したようだった。

腕時計を一瞥してから顔を上げる。

「出かけるのか。送る」

疑問ではない。淡々としているのに、有無を言わせない響きがあった。

古川朱那は反射的に断りかける。

「いえ、そんな……私たち、タクシーで――」

「いいです、いいです!」

須藤若菜が先に声を張り、ことりことりと小鳥みたいに頷きながら満面の笑みを咲かせた。

「佐野さん、お願いします! ちょうど市内まで行くところなんです!」

そう言いながら、こっそり朱那の袖を引っ張る。目がきらきらと「乗れ」の合図を送っていた。...

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