第83章

「道で拾ったんです。飼い主も名乗り出なくて……古川嬢に一度聞いてみようと思って」

佐野一玄は彼女の目を見なかった。口ぶりは淡々としていて、まるで「今日はいい天気ですね」とでも言うみたいだ。

古川朱那はぽかんとした。

……そういうこと?

なのに、どこか引っかかる。胸の奥に、妙な匂いが残る。

「佐野さん、これ……」

「見ますか?」佐野一玄が静かに問う。

古川朱那は一瞬ためらった。キャリーケースの中から聞こえる子猫のか細い声が、心をちくちく引っかく。

少しして、彼女は身を引いた。

「……とりあえず、入って」

佐野一玄は上がり、キャリーケースを玄関マットの上に置くと、しゃがみこん...

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